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わかりやすい広告と複雑なPR

pr考古学 広告はわかりやすくPRは複雑

新年度が始まりました。企業のパブリック・リレーションズ(以下、PR)部門に配属された人、またPR企業へ入社した人たちも多いことでしょう。

私自身、2000年から2010年ごろまで、いくつかのスタートアップやベンチャーでPR業務に関わりましたが、昨年からあるご縁でPRコンサルティング企業のお世話になり、この1年間は国内だけではなく外資系企業も含めてB to B、B to C、それも大手企業からベンチャーやスタートアップまでさまざまな企業のPR現場に関わる機会がありました。

そうした経験も踏まえて私個人がPRについて、いま実感していることをお話ししようと思います。

お読みいただく皆さま、とくにこれからPR業務に携わるご担当者あるいは新入社員の方々に資することがあれば嬉しく思います。

PRについて正しい理解を妨げているもの

PRについて

昨年12月25日(日)の朝日新聞の一面トップに掲載された「ステマ広告 法規制へ〜明示しない宣伝 依頼主を処分」では以下のように書かれています。

“規制の対象は、広告を依頼する広告主とする。「広告」「プロモーション」「PR」といった文言で広告だと明示しないステマ行為が行政処分の対象となる。ステマにあたる書き込みを行った側は、行政処分の対象外となる。”

またCNET Japan「日本でも「ステマ」が法規制へーー現役インフルエンサーの4割が依頼受けた経験」では、以下のように書かれています。

“ステマが多いことは問題視されており、業界団体WOMマーケティング協議会が広告には「#PR」「#広告」などとつけるという「WOMJガイドライン」を出していたが、実際は守られていなかったというわけだ。

WOMJマーケティング協議会のインフルエンサーマーケティング実態調査(201811月)によると、インフルエンサーのステマに対しては51.9%が不快を感じている。逆に依頼の事実を明示したものは、「とても良いことだと感じる」(29.8%)、「良い情報を教えてくれてありがたい」(24.1%)と好意的にとられる。”

CNET Japan、朝日新聞ともに、ステマ広告規制に関する記事に「PR」という言葉が含まれています。今日でも、マスメディアにおいても「PR」はPRomotionの頭文字2字の略という認識のされ方のような印象を受けます。

こうした状況は企業、PR企業、メディアなどに原因があります。

パブリック・リレーションズは通常、「PR」と表記されています。「PR」は、「広告」や「プロモーション」も含め、マーケティングコミュニケーションの確かに一手段です。

しかし、予算を投じて広告枠を購入する広告やプロモーションとは異なり、PRは第三者(それはほとんどがメディア)の取捨選択によるメディアへの記事による情報露出です。

PR企業にメディアへの露出を依頼すればその活動費用は発生しますが、広告枠を買い取って必ず掲載されることが保証されているものではありません。従って、広告やプロモーションとは明らかに違います。そこがとても重要で、大事なことなのです。

雑誌やウェブメディアで「企業PR」や「特別企画」、「特集」などと表記されているコンテンツは、そのメディアの広告枠へ出稿している記事の体裁による広告なのですが、それが一般の人たちのPRへの誤解をいまだに残している結果となっています。

PRという言葉を『広辞苑』(第7版)で調べると、以下のように書かれています。

ピーアール【PR】(public relations)
①企業・官公庁などが、その活動内容を広く知らせ、多くの人の理解を得るために行う宣伝活動。世間に知らせること。売りこむこと。「自己を〜する」

『大辞林』(第4版)や『大辞泉』(第2版)のほか、『日本国語大事典』(第2版)、『新明解国語事典』(第7版)にも「広告」や「宣伝」、「売り込み」という言葉が解説として載っています。

ちなみに『現代用語の基礎知識 カタカナ外来語辞典』(第5版)では、本来の意味にもっとも近い解説が掲載されています。

パブリック・リレーションズ【public relations】
広報活動。個人ないし組織体で持続的または長期的な基礎にたって、自身に対して公衆の信頼と理解をかち得ようとする活動。[略]PR

本来、言葉の厳密な意味の解説や定義をすべき上記のような日本を代表する各社の辞典でも、広告の一手段のように混同していることが、PRについての正しい理解を妨げているように思います。

こうした状況に加え、日本のPR発展における曖昧で特殊な背景や事情も絡んでいます。

デジタルPRと従来のPRの違いは?活用方法と成功事例を紹介!

PR・広報の日本的な「曖昧な事情」

PR 広告 作成

広告のようにわかりやすいコミュニケーション手段とは異なり、PRについてはやはり今日でもきちんと理解されていないように思います。

マーケティングコミュニケーション領域では、さすがにPR=広告(Promotion)と思い込んでいる人はいなくなりつつありますが、それでもPR≒広告(Promotion)という認識の人たちはまだ多くいるように感じています。

その背景として、3つの理由があると個人的には思っています。

第1に、PRは長らく広報と呼ばれ、現在でも多くの企業でこの呼称が使用されています。

従来は届けるステークホルダーの範囲が、情報発信主体のどちらかというと内側に限定されていたということもあり、一般社会など外へ向けた華やかな広告コミュニケーションとは異なり、どちらかというと社内や取引先、株主などとの裏方的なコミュニケーション業務が中心でした。かつて、私が「総務部 広報課」という名刺をもらった経験がそうした事情を象徴しています。

第2に、広告のように業務がわかりやすくないこと。

実際のPRとなると、広告や宣伝に比べて広範な関わりによるコミュニケーション戦略とノウハウが必要とされます。しかも、PRも広告と一括して広告代理店に丸投げして、「ついでに」あるいは「そえもの」的に業務委託してきたことも一因となっているのです。

第3に、メディアの多様化とテクノロジーの進歩により、コミュニケーション領域が拡張したことがあります。

認知度を獲得し向上させる、企業のヒト・モノ・コトを伝える手段や手法が格段に広がり、それぞれの領域でどのようなPR策を実施すべきか、どの戦略や手法が最適なのかを判断するには時間もかかります。

そうした事情により、従来のマーケティングコミュニケーションにおいて、広告>PRから広告<PRへのシフトが国内の企業にも浸透しつつも、PRについての理解は据え置かれたままになってきたように思います。

ベンチャー企業やスタースタートアップなど若い企業では、PR意識が顕著に感じられますが、しかし一般的な企業(大企業、中小企業を問わず)のPR担当者は、PRについて理解が深まっているというわけではありません。

そうした背景や事情もあるからなのか、いくつかの企業ではPRを担当している人でも思いのほか、PRについて誤解しているあるいは勘違いしていることに何度か驚くことがあります。

もちろん、PR企業で長らく経験を積んでから企業のPR担当者に転職した人などがいる場合は、PRについての認識がきちんとしていることで業務を円滑に進めやすいケースもあります。

関連記事:
PR会社 vs 広告代理店 vs コンサルティングファームという“課題”について考える
難しくないBtoB企業の広報PR戦略と成功事例

PR大転換の時代

PR大転換時代

マーケティングコミュニケーション戦略という視点では、広告・宣伝とPR・広報は同じコミュニケーション領域に属してはいますが、両者は「関係はあるが関係がない」ともいえます。つまり、相互にマーケティングコミュニケーションとして関連しながらも、別の意味では相対的に独立した関係にあるのです。

1980年代半ば以降、メセナやフィランソロピーという言葉とともに、企業の文化支援などの経営姿勢を広く消費者にも伝えるため、国内の大手企業でもコーポレートコミュニケーションという考え方(部門)が導入されましたが、それもどちらかといえば企業活動の広告が目的というような認識でした。

今日では、PRそのものの意義と価値が本来のコミュニケーション範囲や領域に求められていることで、その必要性も高まっています。

世界的にもPRの重要性は注目されています。2009年、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(旧カンヌ国際広告祭)」にPR部門が創設されたことは、世界的なPR需要に貢献しています。

関連記事:【書評】プロフェッショナル広報の仕事術

広告はわかりやすくPRは難しい

マーケティング画像

広告がわかりやすくPRがわかりにくいというより、むしろ後者がカバーすべき領域が広範囲で複雑であり奥が深いのです。PRパーソンのバイブルといわれている『体系 パブリック・リレーションズ第9版』(カトリップ、他2名との共著/2008年:ピアソン・エデュケーション刊)の目次を見ればそう感じるでしょう。

広告とは、さまざまなメディアの提供する有料の広告枠を買い取り、そこで自社の製品やサービスについて宣伝行為(自己アピール)を展開することです。それは映像や音声のこともあるし、言葉やイラストの場合もあります。自己に都合のよいことを、世間に自らふれて回る(認知してもらう)ことです。

PRは、一般社会との関係性構築を図るために法人が行うコミュニケーション行為です。さまざまなメディアを活用しながら社会の多様な人たちに情報を伝え、好意や信頼感に基づく関係を醸成あるいは育成、構築し維持と強化を中長期的な視点と戦略で実施することです。

また、不祥事や炎上などが発生した場合、最善策を考えて多種多様なコミュニケーション活動するのもPRです。ですから広告とは異なり、PR は“public engagement”あるいは”social currency”とも言われているのです。

だからこそ、元コカ・コーラでCMOを務めそれに基づく組織のあり方を作り上げたセルジオ・ジーマンでさえ、その著書『実践! 広告戦略論』のなかで、広告とは別にPRはその専門企業に依頼すべきことを説いているのです。

それがどのような業務領域であっても、今日ではクライアントの課題の現状分析、発見、解決策、その戦略立案から実行までを提案できる人材が求められています。

しかし、ことコミュニケーション領域のなかでもPRは、ドラッカー的手法で相手の中から解決策を引き出すような高度なテクニックのほうが効果的な場合もあります。

それは、依頼されて広告戦略を考案して提供するより、多様で難しいだろうということは容易に理解できるでしょう。

しかし、最近ではテクノロジーの発達によるメディアの多様化にともない、コミュニケーションの最適化という視点からPRを強化すると同時に、その最適化の過程で広告との区別がかつてのように明確ではなく、コミュニケーション活動領域において両者の境目が曖昧になりつつあるという状況なのです。

関連記事:【書評】「評判」はマネジメントせよ

高まるメディアトレーニング

h2 高まるメディアトレーニング画像

PR活動において、メディアとのコミュニケーションや関わりはとても大切です。

これについては、『メディア・コミュニケーション[入門]〜対応から活用へ』(ウィリアム・ J・ホルスタイン:ファーストプレス)の書評でも取りあげました。

欧米においてもメディアトレーニングが十分とはいえない実情がかつてはあり、どうしてもメディア取材に対しては受け身的な対応になってしまいがちです。そうした消極的な対応ではなく、むしろ積極的に活用するという発想こそが必要だと説いています。

したがって、ここのところメディアトレーニングの需要がとても高まっています。

そうしたトレーニングではまずPRについてレクチャーを行い、模擬インタビューを実施し、服装、仕草(表情や目線など)などの態度、言葉づかい、想定される質疑応答などについて評価などをし、その後に修正点などを洗い出してクライアントにフィードバックします。

プレゼンに慣れている人でも、意外とインタビュー時には滑舌が良くなくて聞き取りにくい人もかなり散見されるので、滑舌トレーニングは実は個人的にはとても大切だと感じます。

関連記事:広報は目的によってベストポジションが異なる!?

もっともセンシティブな危機管理におけるPR

わかりやすい広告と複雑なPR

数あるPR業務のなかで、一番難しいのが危機管理に関するPRです。その巧拙が、その後の企業や事業の浮沈を握っているからです。

この業務には、経験的な蓄積とメディア対応に熟知した弁護士との連携や協力が不可欠となります。

ある企業とその企業の顧問弁護士を交えて行った危機管理の会議のケースでは、弁護士の方が企業の危機管理についてのメディア対応の経験がないこともあり、終始法務的なありきたりな返答しかしないこともあって、メディアへの対応も勘案するとむしろ問題を解決する糸口にはならないと残念ながら感じました。

それをクライアントにも進言するべきか否か迷いましたが、逆に企業のご担当者もそのように感じたらしく、むしろPR会社が日ごろからこのような危機管理案件で連携してメディア対応の仕方もよく心得ている弁護士事務所を交え、今後は協議や対応をしていきたいとの申し出がありました。

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人材確保と育成について

人材確保画像

日本ではコミュニケーション領域(マスメディア論、ジャーナリズム論、マーケティング論など)について、大学などの教育機関において学習できる機会、なかでもPR論をについて知識や情報として学ぶ機会が欧米に比べて極めて少なく、近年では増えてきているとはいえやはりハンディがあります。

したがって、PRについて学びたいという人のほとんどは、個人的な興味や今後の就職をみすえながら各自で学ばなくてはなりません。

そうした事情もあり、広告より複雑で範囲の広いPRは、急速に高まったPRニーズに対して需給バランスを欠いており、人材確保や育成という点で多くの課題を抱えている状況を改善していくことが求められています。

私も今回の仕事を通じて、同じ業界内の企業の事情や状況を多く知ることとなりました。また、業界に関わった経験がある友人からは、人材育成や獲得、そのスキルについてなどPR業界内での人材争奪戦はとても激しいということを聞きました。

しかし、大手で研修体制が整っているか、さもなければ研修時間が確保できるPR企業でない限り、そうした問題に対応することは難しい課題となっています。

実際の業務に携わる前に、PRパーソンとしての心構えなどについて最初にレクチャーをする、もしくは時間がなければ最低限PRで身につけておくべき基礎的な知識などについて選定したテキストを提供し、そこでの疑問などについて適切に指導や対応できる仕組みを用意してサポートすることが求められているように思います。

【参考リンク】

(1)広告会社やPR会社という業務区分の意味が既になくなりつつあるという話
(2)パブリック・エンゲージメントというPR戦略とは?/米エデルマン
(3)PRとは「PUBLIC RELATIONS」ってことを忘れていないか?

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梅下 武彦
コミュニケーションアーキテクト(Marketing Special Agent)兼ブロガー。マーケティングコミュニケーション領域のアドバイザーとして活動をする一方、主にスタートアップ支援を行いつつSocialmediactivisとして活動中。広告代理店の“傭兵マーケッター”として、さまざまなマーケティングコミュニケーション業務を手がける。21世紀、検索エンジン、電子書籍、3D仮想世界など、ベンチャーやスタートアップのマーケティング責任者を歴任。特に、BtoCビジネスの企画業務全般(事業開発、マーケティング、広告・宣伝、広報、プロモーション等)に携わる。この間、02年ブログ、004年のSNS、05年のWeb2.0、06年の3D仮想空間など、ネットビジネス大きな変化の中で、常にさまざまなベンチャー企業のマーケティングコミュニケーションに携わってきた。