グローバルコンサルティング会社のOPERAと共同で、欧州連合とプロヴァクーノ(スペイン牛の専門職間連携団体)が3年間にわたって実施するワンダフルビーフ2.0キャンペーンのデジタルマーケティングとビジネスマッチングを支援しています。主にSNSを使用したソーシャルメディアマーケティングで日本の消費者に向けてスペイン牛の魅力を発信しています。このプロジェクトでは、3つのソーシャルメディア(Instagram、Facebook、YouTube)におけるKPIが設定され、ブランドリーチ、投稿や動画の閲覧数、アカウントのフォロワー数を増やすことを目的としていました。さらに、InstagramのインフルエンサーなどKOL(Key Opinion Leader)を年に1人起用した拡散も行いました。日本市場における成功の裏側にあった多くの課題を解決した事例を紹介します。
日本公式Instagramアカウントの特徴と工夫
日本市場において、海外の新しいブランドを定着させるのは容易ではありません。最初に取り組んだのは、アカウントを『ジャパンフレンドリー』にすることでした。公式アカウントのプロフィール画面は、ブランドの顔となり、様々な要件が要求されます。まず、最低基準であるハイライトを5つ以上つけることです。日本にローカライズしたコンテンツを制作する必要がありました。
ワンダフルビーフには公式ショップや特定の商品はなく、スペイン牛という新しい選択肢を提供することがこのアカウントの目的です。初期段階で、投稿スタイルとリーチする年齢層をテストした結果、新鮮なお肉の写真やスペイン牛を使用したレシピの組み合わせが、最も効果的にエンゲージメントを得られることが分かりました。
EU政府がバックアップするこのプロジェクトでは、単純に牛肉の宣伝をするだけでなく、ヨーロッパ生産モデルというアカデミックな内容の「宣伝」記事も必要であり、エンゲージメントの高いオーディエンスを構築するのは難しい課題でした。投稿においては、海外ページの投稿を繰り返すのではなく、日本の様々な祝日や文化とスペイン牛を組み合わせたコンテンツを投稿したことで比較的高いリーチとエンゲージメントを実現しました。
公式SNSアカウントのフォロワーを増やすコツ
日本のオーディエンスは諸外国と比べ圧倒的にフォロワーの獲得が難しいです。ある広告が18万ビューを超え、4,000以上のエンゲージメント(いいね!やコメント)を獲得したにもかかわらず、ページのフォロワーが10アカウントしか増えないという事がしばしばあります。
消費者の多くは、そのブランドに共感するかどうかを慎重に検討した上でフォローすることになります。これは、顧客の購入プロセスについても同じことが言えます。時間がかかっても購入できるだけの完全な知識とブランドへの信頼が必要を醸成していくことが結果的に近道となります。事実、投稿閲覧数/リーチ数のKPI目標は容易に達成できるものの、フォロワーの獲得は信頼構築の証となり、目標として設定するのは困難です。
フォロワーの購入は絶対にNG
InstagramやTwitter、Youtubeのフォロワーを販売するサイトがあるのはご存じでしょうか? 以前、このサービスの有効性をテストするために、実験用のInstagramアカウントで実際にフォロワー購入したことがあります。プロフィール画面を見ると確かにフォロワー数は増え、数ヶ月後もその数は維持されます。しかし、実際のインサイト(属性)をアナリティクスで確認すると、そのほとんどが台湾や中国などアジア各国で作られたアカウントで中にはボット(機械)のアカウントがあることが判明しました。
フォロワーの増やし方にはいろいろなアプローチがありますが、初期段階では地道なアプローチが重要です。類似のアカウントをフォローし、その投稿にコメントや「いいね!」をつけて、フォローバックされることを期待する方法です。数十本の投稿を公開し、こちら側からフォローをするということを繰り返した結果、フォロワーが1000人に達し、公式アカウントとして認知されるようになったのです。
フォロワーキャンペーンで獲得を加速させる
2021年後半から、Instagramのアカウントで定期的な『フォロワーキャンペーン』を実施し始めました。Instagramでは投稿やフォローを見返りに利益を享受することを規約で禁止していますが、プラットフォームを盛り上げる施策であればむしろ歓迎されます。
公式アカウントのフォローやメンション投稿へのインセンティブを与えるだけでなく、牛肉の中で好きな部位や好きな料理、どんなときに食べるかなど牛肉の消費に関わる参加型のコンテストにすることで、多くの参加者を募ることができ、1回あたり約500人の新規フォロワーを獲得することができました。
一方、Facebookでは別の戦略を採用しました。投稿に対してコメントや「いいね!」をしてくれた人に対して、Facebookページへの「いいね!」を招待することができます。Facebookページの投稿はオーガニックでのリーチはほとんどせず、広告による投稿の拡散が必要となりますが、結果として2万円かけるごとに、約100〜200人のフォロワーを獲得することができました。
これらの方法は費用と時間がかかりますが、その分、獲得したフォロワーやページの「いいね!」が、フォロワーが増える度に、ワンダフルビーフの投稿へのエンゲージメント数が大幅に増加しました。投稿を行い、48時間以内のエンゲージメントが高い投稿を広告でブーストすることで、効果的に人からのフォローを得ることができました。フォロワーの質は数と同様に重要なのです。
SNSプラットフォームの変更に対応
SNSを使ったPR&マーケティングのリスクは、プラットフォームが常に不安定であることにあります。買収されたり、プラットフォームが合併したり、ブランド名を変えたり、方針が急激に変わったりします。たとえば、2021年10月4日に旧FacebookがMetaに社名変更したときには、約6時間にわたってアクセス障害が発生しました。そして、このリブランディング後には、広告手法やターゲティング広告のポリシーにも影響が及びました。
また、広告のレイアウトはフォーマットやオプションが著しく変化し、困っている広告運用担当者も多いのではないかと思います。2022年8月から、Instagramはハイライト動画に許可されていた100万曲近くを削除し、動画セクションをリールに統合しました。また、最大の変化は、2022年4月28日をもってFacebook広告の『接続ターゲット』設定が廃止されたことです(1月の時点で不具合という形で非公式に停止されていました)。
人種、性別、信条、性的指向などをターゲットとするような特定のオプションを削除するという、ほとんどが倫理的な理由を元にした変更です。しかし、このセクションを廃止されたことで、『現在のページのフォロワーに対して新しい広告を除外する』という非常に便利なオプションが失われることにもなりました。これにより、投稿広告のリーチの一部が、すでにそのページに「いいね!」を押しているオーディエンスや何度も広告を見たことのあるオーディエンスに行くことになり、今後の広告のエンゲージメントの低下にもつながりました。
FacebookとInstagramの使い分け
世界的には、Facebookは友達、Instagramは衣食住、Twitterは政治・思想、LinkedInはBtoBという傾向があります。今回のワンダフルビーフ2.0 キャンペーンでは、FacebookをBtoBに、InstagramをBtoCへの認知目的に使用しました。
Facebookは中間管理職向けのマーケティングチャネルとして有効であり、そのデモグラフィックは主に年配の男性ということになります。これは投稿や広告のインサイト(リアクションがあった層)でもこの統計は確認され、クライアントのフォロワーや投稿のインタラクションの大半は40~70代の男性でした。一方、Instagramは、ミレニアル世代が最もエンゲージメントの高いオーディエンスであり、フォロワーの大半は25~45歳となっています。
Metaの広告ポリシーにより、ターゲット広告は18歳未満に向けることはできませんが、興味や行動のターゲティングを使用すれば、その層にリーチすることも可能です。ただし、投稿や広告によって即座のフォロワーや投稿のエンゲージメント(いいね!やコメント)はあまり期待できず、TikTokのチャネルの活用も検討する必要があります。
インフルエンサー選定
今回のインフルエンサー選定では、20万人のフォロワーを持ち、3つの投稿(2つのスライドショーと1つのビデオレシピ)をしてくれる方を起用する必要がありました。約20人のインフルエンサーの候補リストを作成し、提案しました。インフルエンサーにもいろんなタイプの方がおり、本人と直接やりとりができる方もいれば、事務所(エージェンシー)を通す必要がある方もいます。一般的に20万人くらい迄であれば、事務所を通す必要がなく、比較的安価(フォロワー単価2−3円)に済みます。
今回は、『仕事や家事で忙しい人のための簡単・時短レシピ』をテーマとする家庭料理の研究家・インフルエンサーとコラボをしました。当時、このインフルエンサーはInstagramで約40万人のフォロワーを持ち、TikTok&Twitterなどでも同程度のフォロワーを抱えていました。インフルエンサーに依頼する時には、相手のアカウントを尊重し、世界観に合った投稿内容の依頼が重要です。その結果として、約832,351アカウントにリーチすることができました。
まとめ:SNSの変化に合わせた柔軟な戦略設計
SNSは時代のニーズと共に大きな変化をします。かつて、Facebookページは個人アカウントと同様にタイムラインに表れ、オーガニックなリーチを期待できましたが、広告による拡散に頼らざる得ません。また、時と共にユーザー層が変化します。ユーザーが年を取るという風に捉えてもいいかもしれません。
シェイプウィンでは、プラットフォーム毎に更新・追加される微妙な変化を認識し続けるだけでなく、リテーナー契約をするクライアントに対して情報を提供し続けています。長期的にSNSアカウントを運用する上で、KPI目標を長期的に固定してしまうのは少しリスキーです。プラットフォームが基準を変えるように成果の基準も変化すべきなのです。
例えば、マーケティング担当者の多くが指標にしているフォロワーの数です。Facebookページでは、『ページへのいいね!』はプロフィールページから確認しにくくなり、ボットアカウントにより、かさ増ししたアカウントもたくさんあります。フォロワー数というのは、一般的に無意味になり、代わりにターゲットリーチとエンゲージメントに焦点が当てられるようになりました。
このように、ブランディングを成功させるために長期的な戦略を時流に合わせて修正することが重要です。ソーシャルメディアマーケティングというのは、あくまでSNS上で行うものであり、潮流に逆らって泳ぐようなことはできません。また、潮流は変わりやすいため、常に潮目を変化するのが重要なのです。