2019年1月からスタートした日本サブスクリプションビジネス振興会、サブスクリプションというビジネスモデルを広く日本の企業に浸透させることを目的としており、サブスクリプションビジネスのトップランナー企業ら6社が立ち上げた業界振興団体です。振興会の認知と会員獲得を目的とした広報PRでは『記者発表会』を実施し、40以上のメディアが出席。大手ビジネスメディアをはじめとした多数のメディアでの露出に成功。また、この記者発表会は、メディアに露出だけでなく”新規入会促進”にも大きく寄与しました。日本サブスクリプションビジネス振興会が成功した秘訣を伺いました。
サブスクリプションビジネスを当たり前に
シェイプウィン 神村:
——日本サブスクリプションビジネス振興会についてを教えてください。
日本サブスクリプションビジネス振興会 吉澤さん(以下、敬称略):
この振興会は国内で長くサブスクリプションビジネスに携わっている企業らが集まって2018年12月に立ち上げた団体です。『サブスクリプション』という言葉は、2年ほど前から日本でも一般的になってきましたが「何から始めればいいのか」「どのように取り入れればいいのか」などたくさんの課題があり、まだまだ言葉が先行している状態です。日本にある様々な業種・規模の会社に向けて、サブスクリプションというビジネスモデルを認知・採用してもらう目的で、セミナーやワークショップなどを中心に活動しています。
神村:
——振興会を立ち上げるに当たってどのような背景があったのですか?
吉澤:
僕はテモナ株式会社に属していて、サブスクリプション——いわゆる定期・定額販売に関するサービス提供や支援の事業をやっています(サブスクストアなどが主力サービス)。テモナは12期目の会社で、ITシステムの受託開発から始まった会社です。受託ビジネスは、どうしても受注失注で一喜一憂してしまいます。特に大手顧客からの契約を失った場合、売り上げ半分になるけど固定費変わらないということをよく耳にします。
テモナは、創業3期目から徐々にサブスクリプション(当時はストックビジネスと呼称)に切り替えていきました。いきなりサブスクリプションに切り替えると初期の固定費を賄えないので、既存の受託開発を行いながらサブスクリプションの売上シェアを伸ばしてきました。
日本サブスクリプションビジネス振興会を立ち上げたのは、サブスクリプションというビジネスモデルへの恩返しの気持ちが根底にあります。テモナは、サブスクリプションビジネスに切り替えたことによって、10年以上会社を存続し、継続した企業成長をすることもできました。おかげさまで、今年(2019年)の4月には東証一部上場まで果たすことができました。
神村:
——テモナでの事業展開でサブスクリプションを広めていくことも可能なのかと思いましたが、振興会を新たに設立した理由は何でしょうか?
吉澤:
テモナでもサブスクリプションビジネスの立ち上げ支援をしていますが、商売として広めるには限界があります。実際にサブスクリプションビジネスの最前線に立っている企業が集まって、今まで培ってきた経験やノウハウをシェアし、会員企業同士でビジネスを盛り上げて行くという振興会の形が最適だという答えになりました。
神村:
——通常、業界団体って共同受注やビジネスマッチングが目的だと思うのですが、日本サブスクリプションビジネス振興会はどうですか?
吉澤:
日本サブスクリプションビジネス振興会は、他の業界団体に比べて少し特殊な面があると思います。通常は同じ業界だったり、同じ立場だったりということが多いと思いますが、この振興会は、多業種かつ様々な立場の方が参加しています。共同受注やマッチングなど会の中で商売をするのではなく、新たなビジネスモデル構築を目指しています。事例やノウハウなどの『知』の共有が特徴であり、毎月の勉強会の盛り上がりがその反映です。
神村:
——ありがとうございます。それでは、本題の広報PRについて伺っていきたいと思います。
広報PRには『生きたメディアリスト』が必要
シェイプウィンは、数年前からテモナのマーケティングについてコンサルティング支援をさせていただいております。それに伴い、日本サブスクリプションビジネス振興会の設立に置いても広報PR活動の支援をいたしました。
神村:
——昨年(2018年)の夏くらいにこの日本サブスクリプションビジネス振興会を立ち上げるということでご相談いただきました。
吉澤:
テモナとしては、はじめてのビジネス振興会だったので、他の団体のマーケティングや会自体の盛り上げなどたくさんのアイデアをシェイプウィンさんからいただきました。
神村:
——日本サブスクリプションビジネス振興会を2019年1月に設立することをメディアに発表し、広報PRするにあたり、2018年の10月くらいからプロジェクトに参加しました。当時を振り返って、広報PR面での課題はどのようなものがありましたか?
吉澤:
いろんな業種にリーチしたいと思っていたので、広報PRは重要な手段であると位置づけていました。そこで何が課題になったのが、メディアとのリレーションが自社にない点でした。通販系や美容健康系のメディアとは今までもリレーションがあったのですが、もっと広くサブスクリプションを広めることがためには、テモナがリレーションを持っていないメディアへのアプローチが必要でした。
神村:
——新規でリレーションを築くというのは、なかなか困難で数ヶ月でできる事ではないですね。そういう場合は、メディアリレーションに強いPR会社を使った方が早いのは確かです。
吉澤:
日経新聞やビジネス誌も過去の取材や他の会合での名刺交換でリストとしては持っていますが、常にコンタクトを取とれていなかったので、いわば『死んだリスト』なんですよね。『生きたリスト』を持っているという意味でもお願いしてよかったです。
神村:
——企業広報とPR会社の違いは、様々なネタを持って行けるので、コンタクトを維持しやすいという点もあります。
広報PRストーリー作りは『スパーリング練習』みたい
日本サブスクリプションビジネス振興会の設立発表における広報PR施策として、メディア発表会(プレス発表会、記者発表会)というメディアを招集して一堂に発表するPR手法を行いました。発表会に足を運んでもらうためには、広報PRストーリー作りは欠かせません。ストーリー作りについて振り返りました。
神村:
——広報PRストーリー作りについて伺っていきたいのですが、その前に、シェイプウィンに発表会の広報PR支援を依頼していかがでしたか?
吉澤:
対等にパートナーとして接してくれたことは非常によかったですね。僕は、元々マーケティング支援会社の側の人間だったということもあるのですが、シェイプウィンさんは下請け感が全くないというのが最高だったと思います(笑)。
神村:
——多々失礼も承知でいろいろと言わせてもらいました(笑)。
吉澤:
我々は自分たちの事業のプロではあるけど、広報のプロではないですからね。お互いに違和感のない距離感で仕事ができるというのはとても大事なことだと思います。戦略も一緒に考えてくれるのですが、僕たちが考えるべきところはしっかり指摘してくれたり、外からの視点での疑問点はどんどんぶつけてくれたりするのは大変ありがたかったです。また、戦術(作業)の部分では、明確に仕事の領域を分けてくれることと、お互いの仕事領域を尊重してくれる点も進めやすかったです。
神村:
——スタート前に、結構難しい案件ですよという話をした記憶があります。大手同士の社団法人結成なら内容はともかくメディアが取り扱ってくれますが、今回はそうではないので、広報PRストーリーを作り込みが重要だと思いました。設立に対する”想い”の部分はしっかりしていたので、社会環境や理論武装を固めていく必要があるかなと思いました。
吉澤:
広報PRストーリーについては、たくさん宿題をもらって、悩みました。シェイプウィンさんとのやりとりはまるでボクシングのスパーリング練習みたいで大変でした(笑)
神村:
——メディアの人ってたくさん勉強しているので安易なストーリーだとすぐに反論されてしまうんです。なので、イエスマンにならず、あえて厳しい反応をしたことも確かです。
吉澤:
客観的な意見とメディアの視点でビシバシと意見をくれたことが、強固なストーリー作りにも役立ちましたし、今まさに来ているメディアの取材対応でもとても生きています。シェイプウィンさんから教えてもらったメディアとのコミュニケーションの方法によって、メディアの特性や思考に対する理解が進みました。そのおかげで実際のメディア露出にも繋がっています。この広報PRストーリー作りは貴重な経験で、今でも役立っています。
ユニークな発表会でボディーブローのような効果が
神村:
——発表会は相当盛況でしたが、振り返ってみていかがですか?
吉澤:
最初の想定よりもたくさんのメディアにご来場いただきました。ビジネスメディアやIT系メディアなどをはじめとして40メディアに取材してもらえました。一般の来場者も300名以上出席してものすごく盛況でした。
神村:
——今回の発表会は少しユニークだったと思います。通常の発表会はメディア向けと一般向けで別々に行うことが多いのですが、今回は、入会希望の会社とメディアは同じ場に座って発表会(記者会見)を行いました。その成果はいかがでしょうか?
吉澤:
僕も発表会のプロデュースは何度かやってきたのですが、確かにあまりやらない方法ですよね。しかし、この方法がよかったのは、後からボディーブローのように効いてくるんですよ。
神村:
——ボディーブローのような効果ですか?
吉澤:
40名以上のメディアが一堂にして発表会を取材している様子(特にフォトセッションでの積極的な写真撮影など)を一般の来場者が見たことで、この発表会に参加したことに対する満足アップや今すぐ何かを始めないといけないと喚起されたようです。発表会の後すぐに入会されなかった企業さんも思い出したように続々と入会されています。
神村:
——確かに、メディアの発表会に参加したことがある方は、少ないでしょうから、圧巻されたということでしょうね。
吉澤:
発表会を取材してくれたメディアの記事を見て入会を希望する企業も多いので、広報PRとしては大成功だと思います。
神村:
——発表会後、数ヶ月経っていますが、今もメディアの取材が後を絶たないようですね。
吉澤:
一般来場者が100名以上いた発表会は、メディアの方にとっても圧巻だったんですかね?
神村:
——発表会後、メディアのフォローをしましたが、非常に高評価でした。発表会の盛況ぶりを見て、サブスクリプションに関する取材やネタ探しは日本サブスクリプションビジネス振興会に相談しようという空気ができたようです。
吉澤:
メディアのセッションと一般のセッションを分けなかったことは正解だったなと思っています。メディア向けのコンテンツと一般向けのコンテンツは、それぞれ求める情報が違うので、最初はどうなるかなと思いましたが、シェイプウィンも発表会のコンテンツ作りで上手くまとめてくれて助かりました。
神村:
——大変でしたが、そう言っていただけると、一緒に実施できてよかったです。
サブスクリプションを本気で始めたい会社のコミュニティ
神村:
——日本サブスクリプションビジネス振興会の今後について教えてください。
吉澤:
今後は地方の支部を作って行きたいと思います。東京だけで開催していると、毎月行くのは大変という会員企業が複数社あります。興味があって、参加したいのに地理的な問題で行けないという状況を改善しないといけないと思っています。
まずは、通販業界として盛り上がっている九州地方での支部設立を計画しています。個人的には、そこから地方都市に広げて行き全国コミュニティにしていきたいと考えています。
神村:
——現在の活動状況はいかがですか?
吉澤:
毎月会員企業に集まっていただき事例勉強会などを開催しておりますが、現在では分科会の活動も活発化しています。例えば、SaaSモデルの事業者さん同士で集まって、課金の方法やプロモーションなどについて話し合うというようなことをやっています。どの会員の方もサブスクリプションという共通テーマがあるのですが、課題や目的がそれぞれ異なるので、その上流部分の共通認識やマッチングなどを整えるのが事務局の役目だと思っています。
神村:
——こういう業種の方には特に参加してもらいないなどありますか?
吉澤:
サブスクリプションができない業種(会社)はないと思っています。そういう意味では、どの業種でもぜひ参加してもらいたいです。日本サブスクリプションビジネス振興会は、勉強をしに来る場ではなく、会員の皆さまで一緒にビジネスを盛り上げて行く、構築していくという場ですので、「興味がある」「始めたい」などという気持ちがあれば、参加していただきたいです。
神村:
——事業の全部をサブスクリプションにしなくても、徐々にサブスクリプションを取り入れていくということも可能ですよね。テモナをはじめとして理事の企業さんも受託ビジネスから転換された経験があるので、その体験を共有してもらえる価値はとても大きいと思います。
少しでもサブスクリプションビジネスに興味がある、取り入れてみたいという方であれば、ぜひ門戸をたたいて欲しいですね。
貴重なお話をありがとうございました。
吉澤:
ありがとうございました。
編集後記
昨今メディアの招へいが難しいと言われる記者発表会(記者会見・メディア発表会)は、費用対効果などの面から実施の有無を検討されることが多いものです。今までは、新製品や新サービスなのでとりあえず、ケジメのためにもやっておこうという会社も多かったのではないかと思います。広報PR全般でいえることですが、大事なのはストーリーです。発表会の内容としてストーリーの作り込みも重要ですが、発表会をどのように位置づけてその後のマーケティングにどのように活かしていくのかというマーケティングのストーリー作りがより重要になります。日本サブスクリプションビジネス振興会の設立発表会では、メディアと一般企業の相互への影響を考えたコミュニケーション設計が成功の秘訣だったといえます。
日本サブスクリプションビジネス振興会では、入会前に活動を見学することもできます。イベント情報や入会方法は振興会のホームページをご覧ください。
ホームページ:日本サブスクリプションビジネス振興会
シェイプウィンの広報PR支援について