シェイプウィンでは、フランス・中国に拠点を持つ広告代理店Slingshotと共同で、フランス全国酪農経済センター『CNIEL』のPRプロモーションを担当しました。2018年に発効したEUと日本の自由貿易協定(日欧EPA)により、ワインや乳製品など欧州製品の関税が引き下げられ、日本でも手に入りやすくなっています。2021年から始まった3カ年のPRプロモーションの内、2022年と2023年の日本市場での宣伝戦略はシェイプウィンが担当しています。
フランスバター=高価という負のイメージが課題
フランスのチーズやバターといった乳製品は、高額な輸入関税のために高価であるというイメージがあります。日欧EPAの発効によりバターの関税は、発効前360%(※従量換算値、29.8%+985円/kg)から2028年度に向けて35%に段階的に大幅に引き下げられています。
また、日本ではバターは国産のものであっても高価な材料となります。全国の酪農家の数が減少し、生産量が減少する一方で、加工品であるバターは後回しとなり、バター用に使用する生乳の量も少なくなります。また、日本国内の酪農家の保護として、高い関税をかけていることで、バターは供給不足になることが多く、結果として高価なものになっています。
このような状況を鑑み、フランスのバターに対する認識を覆すようなPR活動やイベントを開催する必要がありました。また、バターを日常使いに取り入れられるように様々なレシピ提案やフランス産バターのよさである芳醇な香りのメリットなどを訴求しました。その方法として、マスメディアやSNSを通じて消費者へ直接訴求するだけではなく、HORECA(ホテル、レストラン、カフェ)業界のバイヤーやメニューの決定者を招くことにより、フランス産バターを活用した商品開発を促進することが重要でした。
デジタルPRとポップアップストアによる宣伝戦略
3カ年のプロモーションでは毎年のテーマが設けられ、1年目は『パン』、2年目は『アフターヌーンティー』、3年目は『ホームクッキング』となります。毎年、ポップアップストアの開催を中心に、SNSやオンラインメディアを通じたデジタルPRで戦略的にそれぞれのターゲットに訴求をしていきます。
この度のポップアップストアは、2022年12月1日から7日までの1週間、東京都港区の白金台にある八芳園のイベント『MuSuBu』にて開催しました。イベントはメディア向けのPR発表会に始まり、HORECA業界向けのセミナーや一般消費者を対象としたミニセミナーの他、限定コラボメニューを店内で提供しました。
有名人パティシエを起用したPR発表会
フランス産バターのよさを引き出すためにも日本人の有名パティシエとのコラボレーションは必須であったため、ヨーロッパで修行を積み、『料理の鉄人』などのテレビ番組でもおなじみの鎧塚俊彦(よろいづか・としひこ)氏を起用しました。スイーツを通じて日本とフランスの架け橋となる、キャンペーンのアンバサダーとしてふさわしい存在です。
鎧塚シェフには、ポップアップストアのフラグシップメニューの開発だけではなく、メディア向けのPR発表会に登壇し、コラボメニューの発表と盛り付けの実演を行っていただきました。鎧塚シェフの起用により、ライフスタイル、料理・スイーツなどの雑誌、オンラインメディア、業界紙などのメディアや、Instagramでスイーツなどを投稿するインフルエンサーが多く参加してくださいました。また、在日フランス大使館の商務官からの挨拶では、フランスにおけるバターの位置づけなどについてお話いただき、イベントの公式性を高めることができました。
鎧塚シェフがこのポップアップストア向けに開発したメニューは、『ババ・オ・フィグ』というお菓子です。これは、鎧塚シェフがフランスでのパティシエ修行で得た『ババ・オ・ラム』というフランスの伝統的なお菓子で、コルク形に焼いたババ生地をラム酒入りのシロップに漬け、泡立てた生クリームを添えたものを日本風にアレンジしたものです。フランス産のバター本来の豊かな風味を日本人にも味わってほしいという思いから、フランスのバターの味を生かすだけではなく、日本人にも受け入れられるようなものを作ったといいます。
八芳園・MuSuBuにてポップアップストア開催
ポップアップストアの場所として、東京港区にある八芳園のイベントスペース『MuSuBu』を選びました。八芳園は日本有数の高級おもてなし空間として知られており、MuSuBuはその旗艦店として地元の人にも親しまれている場所です。この地域は西洋と日本の美意識がバランスよく融合していることで有名であるため、MuSuBuはイベント開催に理想的な場所でした。また、MuSuBuは2階建てのイベントスペースであるため、1階でポップアップストア(カフェとストア)を開催し、2階でミニセミナーとPR発表会を行うのにも都合がよかったのです。
今年のプロモーションのテーマは『アフタヌーンティー』です。前年のプロモーションが『ベーカリー』であったため、ポップアップストアはアフタヌーンティーとスイーツを食べに行けるヨーロッパのお洒落なカフェをイメージした内装のデザインにしました。
来店客の心をつかむコラボメニュー開発
また、鎧塚シェフだけではなく、八芳園のシェフともコラボレーションメニューの開発を行いました。日本人の好みに合わせながら、フランス産のバターの魅力を伝えるため、伝統的な焼き菓子とアフターヌーンティーのセットや日本風のアレンジをした『あんバタートースト』を提供しました。日本人の食生活では、パンやバターは主食ではないため、これらの食材をいかにして日本人のライフスタイルに取り入れることができるかを示すことが重要でした。あんバタートーストはカフェでも人気のメニューとなり、和のあんこと洋のバターがよいハーモニーを奏でていました。
レシピ本とトートバッグのノベルティ
ポップアップストアでは、来場記念品(ノベルティ)も重要なコミュニケーションツールです。今回は、フランス産バターの試供品とレシピ本が入ったトートバッグを来場者にプレゼントしました。店内では、有塩バター、フレーバーバター、低脂肪バターなど、様々な種類のフランス産バターを楽しめるような工夫もしました。
BtoBのPRのために業界関係者向けのセミナー開催
今回のイベントで重要だったのは、一般消費者だけではなく、HORECA業界関係者への訴求であるBtoBのプロモーションです。初日は業界メディアにも出席いただき、業界関係者へのメディア露出を期待しました。また、バイヤー向けのミニセミナーには、ル・プティ・トノー オーナーシェフのフィリップ・バットン氏に登壇いただき、『フレンチバターメリット講座』を開催しました。
また、一般消費者向けにも4つのミニセミナーを用意し、八芳園 副総料理長・パティシエの黒田達弘氏、テレビ番組 マツコの知らない世界でおなじみのバターマニア 長尾絢乃氏らを講師に迎えました。そこでは、フランス産バターのおいしさや有用性について説明すると共に、今回のテーマであるアフタヌーンティーに合うフランス産バターの活用の方法ついても紹介しました。
SNSインフルエンサー投稿とリーチ戦略
今回のキャンペーンにおけるインフルエンサーには、料理やレシピを中心に発信している日本のインスタグラマーを選定しました。ジャーナリストやメディアと同様に、個々のインフルエンサーが持つ世界観を損なわないよう、ブランドのスタイルやステータスに応じたコラボ提案をすることで、自然で効果的な投稿をしてもらうことができました。また、クライアントの予算内でエンゲージメントを最大化するために、1万人から10万人のフォロワーを持つマイクロインフルエンサーを中心に起用しました。フォロワー数10万人以上のインフルエンサーは、広範囲のリーチが可能ですが、マイクロインフルエンサーの方がフォロワーへのエンゲージメントやインタラクションが高い傾向にあります。インフルエンサーの方々には、イベントの様子や提供スイーツの写真投稿だけではなく、フランス産バターを使ったスイーツのレシピを開発していただき、紹介してもらいました。
デジタルPRとイベントプロモーションによる相乗効果
記者会見では、合計31名の参加者があり、50のニュースメディアで取り上げられました。オンラインメディアや新聞・雑誌の影響力は依然大きく、インフルエンサーとも協業することで、マス・ソーシャルの両方のメディアから大きくリーチすることができました。
インフルエンサー投稿は、合計約140万インプレッションがあり、Instagramでは、キャンペーン用のハッシュタグを使った投稿も109件あり、トップ投稿は100以上の「いいね!」を獲得しました。
昨今のPRにおいては、これまでのメディアPRとSNSやインフルエンサーを活用したデジタルPRの両立が重要です。インフルエンサーには明確なガイドラインを示し、製品のプロモーションを行いながら、自社ブランドに適した形でコンテンツを提供できるようにする必要があります。クライアントとインフルエンサーの世界観を両立するコミュニケーションが成功の秘訣でした。
また、ポップアップストアは、クライアントのイメージやブランディングに適した場所を選んだことで比較的ハイクラスの消費者にリーチすることとなり、フランス産のバターと日本のバターの違いを明確に日本の消費者にアピールできました。ローカライズとリアル・デジタルでのPRのバランスのよい提案を今後もして参ります。