新しく広報PRを担当することになった新人広報やベンチャー企業の広報担当者は、まず何から手をつければよいのか分からず手探りで大変なことも多いですよね。しかし、ベンチャー企業の広報という役割は経営陣に近い距離で仕事をすることができる、とてもやりがいのあるポジションです。
そして、大企業とベンチャーでは同じ広報でも異なる部分があるということは誰でも理解できるでしょうし、中には「大企業の広報が羨ましい!」と思う方も少なくないかもしれません。実際、就職活動や転職時において、”花形”とも言われる広報は大変人気のある部署でもあります。
今回の記事では、そんな大企業とベンチャー企業の広報の役割の違い、得られるものの違いについて解説していきます。
※なお、今回の記事では従業員1,000人以上の会社を大企業、100人未満の会社をベンチャー企業と位置付けます。
そもそも広報活動とは何か
本題に入る前に、まずは「広報活動とは何か」について触れておきたいと思います。
これについては人それぞれ、さまざまな考えがあると思いますが、筆者が思う広報活動は「自社のサービスや企業文化を世の中に明確に発信しファンを増やす=社会との繋がりを構築する」仕事だと考えます。
広報と広告の違いは前出の記事でも紹介されていますが、広報は主にコミュニケーションによって、メディアや報道を通じて自社の評判を形成していくのです。
そのためには、自社が「どういう会社なのか」「どういう商品・サービスを持っているのか」「どこが強み(特徴がある)なのか」などを広報がしっかりと伝えなければいけません。
取材がきた時にただ商品やサービスの特徴を伝えるだけの単なる伝達役では、広報として不十分と言えるでしょう。
つまり、広報は「会社や経営陣の代弁者」となることが求められます。
広報にもさまざまな役割がある
一口に広報と言っても、そこにはたくさんの役割や業務があることは広報担当者ならお分かりでしょう。華々しく見られる世界にも必ず地味で、泥臭く、細やかで繊細な業務が数多く存在するのです。プレスリリースを書いてメディアに発信するだけが広報の仕事ではありません。
初めて広報ポジションを設ける企業や新任の広報担当者は、この辺りをよく心得ておくとよいのではないでしょうか。業種や企業の特性によって関係構築するメディアもことなりますし、マスメディアとソーシャルメディア(SNS)のどちらに重きを置いてコミュニケーションをするのかなど異なります。
広報活動の取り組みは攻めの広報と守りの広報に分けられることが多いです。
まだ名が知れていないベンチャー企業の広報は攻めの広報の割合が大きく、テレビCMなど大々的な宣伝をしていて、古くから歴史のある大企業の広報では守りの広報の割合が大きくなってきます。
では、攻めの広報、守りの広報とは何でしょうか?
攻めの広報と守りの広報
一言で言うと、メディア露出を積極的に獲得しに行く活動が攻めの広報であり、ネガティブなメディア報道を最小限に食い止めるのが、守りの広報です。
攻めの広報とは、「自社の大事な発表やニュースをメディアで取り上げてもらい、情報を広めたい!」という動機から、メディアに対して積極的にアプローチして行く活動のことを指します。この活動によってメディア露出が成功すると、これまで無名だったベンチャー企業も一気に知名度や信頼度が高まります。
今や社員を何千人も抱え大企業となった渋谷に本社を構える某大手インターネット企業も、創業時から広報活動には力を入れ、経営陣自ら積極的に攻めの広報を行ってきたことで一気に知名度も上がり成長してきました。
それほどベンチャー企業において攻めの広報活動は必要不可欠であり、ひいては企業の成長に大きく関わってくるものなのです。
では、攻めの広報で大事なこととはなんでしょうか?
さまざまあると思いますが、その中でも筆者が大切だと思うことは以下の3つです。
・スピード
記者からの問い合わせに対して間をあけないことです。ベンチャー企業や小さな企業は、いくつかある取材先の一つとなることが多いです。迅速な対応をもらえる会社の方を取材で採用したというケースも多くあります。
・情報収集
記者とのコミュニケーションの中で自社の情報収集はもちろん社会全体の流れを把握しておくことも重要です。特にベンチャー企業は、未形成の市場の製品サービスを取り扱うことが多いです。市場全体を盛り上げて行く広報も行う必要があります。
・誠実さ
嘘をつかない。つい自社を大きく見せようとして嘘をついたりごまかしたりしてしまいがちですが、いつか取り返しのつかないことになってしまうかもしれません。どうしても、ベンチャー企業は資金調達の額面に対して成果が乏しいということも多くあります。その際に見栄を張って将来の話を今の話のように話すとつじつまが合わなくなり、後から炎上するリスクもあります。
そして筆者は、出す情報については「中学生でもわかるように簡潔に、分かりやすく」ということも心がけています。事実、新聞記者もニュース記事は中学生が分かるように、専門用語をなるべく避け、事実を端的に伝えるように努めています。
今回の記事では深く触れませんが、ベンチャー企業の広報として、攻めの姿勢は一定貫いておきたいものです。記者にとって取材対象となる企業やサービスは世の中に溢れていますし、せっかくの機会を無駄にしないためにも最低限の努力はしておきたいですね。
そして大企業で守りの広報の割合が多くなってくるというのは、前述したような攻めの広報をしなくても取材や報道を獲得しやすく、逆に守りとなるリスクマネジメントの方が重要視されるためでもあります。
大企業はベンチャー企業に比べ、圧倒的に記事にされやすいです。
プレスリリースを配信するだけで記事になりますし、記者会見を開けば多数のメディアが集まります。新製品発表だけでなく、人事や株価(業績)に関するものまでたくさんの話題で報道されます。メディアには不正を正すという側面もあるため、逆に大企業ともなるとネガティブな報道をされることもあります。さまざまな取材依頼や報道に対して、取材を断る、誤りを正すことも広報の重要な仕事なります。
「守りの広報=危機管理広報」と呼ばれるもので、自社のブランドイメージが崩れるような報道を採用減に止めるリスクマネジメントです。また、不祥事が起きた際の対応もさることながら、普段から不祥事が起きないように、起きても迅速に対応できる様に経営や生産現場、営業など関係各所と連携して備えることも行っています。
大企業広報でのキャリアにおけるメリット・デメリット
大企業のメリットは前述した通りです。さらにはリスクマネジメント(危機管理広報)について学ぶ機会が多いのも大企業広報のメリットです。また人数が多いのも先輩方のやり方を学べたり体制が整っていたりするため、新人にはとてもやりやすい環境と言えるでしょう。
一方で、大企業ともなれば、当然広報部門が行う業務についても製品群で分かれていたり、社内と社外、IRなどのコミュニケーション相手によっても分かれていたりするなど複数人数で対応します。そのため仕事は分業が基本です。
組織の中で広報業務の一部を担当するだけで、戦略づくりから実行まで自社の広報活動全体に関われることが少ないでしょう。部長や室長など役職がついてくればまた話は変わってきますが、一社員にはなかなかそこまで介入するのは難しいです。筆者の周りでもそういった社員が何人もいました。
そして、マスコミ人脈構築については受け身になりがちです。
基本、大企業の広報担当者はインバウンドで入ってくる取材対応がメインになります。そのため大企業の広報は自らマスコミ関係者を新規開拓する攻めの広報が分からない、できないという方も多くいます。
メディアリレーションは、主に外注先のPR会社を通じた構築になり、広報としての業務の割合はアウトソース企業のハンドリング、広報予算の管理、社内調整などが増えます。
ベンチャー企業広報はゼロイチ
ここまで読んでいると、ベンチャー企業の広報担当者もなかなかやりがいがあり、面白そう!と思う方も少なくないのではないでしょうか。
ベンチャー企業の広報活動で一番苦労するのは、リソース不足です。製品サービスが頻繁に発売されることは少なくPRネタが不足します。広報といっても会社のホームページ運営からプレスリリース作成配信、メディアへのピッチ(売り込み)、企業によってはSNSアカウントの運用など一人が担う業務範囲が大きいのも特徴です。
スタートアップやベンチャー企業の広報は色々な面で苦労もありますし大変ですが、一方で若手でも経営陣に近いところで戦略づくりから実行まで全てに関わることができ、メディアプロモートなどの実務も自ら行っていくためマスコミ人脈もできます。そこで形成したマスコミ人脈は自身の財産なので、転職しても関係性は継続し次にも繋がってくるでしょう。
広報キャリアで独立?それともプロフェッショナルに?
今回は大企業とベンチャー企業の広報の役割の違いについてお話ししてきました。ベンチャー企業ではゼロイチで広報を立ち上げることも多く、ゼロからメディア人脈を構築することが求められます。将来独立を考えているのであれば、このように広報の立ち上げ経験を持っていると他のベンチャー企業での広報や支援側として心強いキャリアを築くことができます。
大企業の広報は業務が細分化されており、その分野を深く掘り下げていくことが可能です。また、企業や取り扱う製品サービス、コミュニケーション相手が多い分、総合的な広報戦略を組み立てる能力も身につきます。例えベンチャー企業であってもIPO、そして多角化のステージに立ったときにステークホルダーとのスムーズなコミュニケーション、人間関係を構築するには重要なキャリアであると考えます。
どちらも一長一短ありますが、自身のスキルを振り返った時に後悔のないような選択をしていきたいですね。