広報の教科書や様々な広報ブログなどで、広報と広告の違いについて目にしたことがあるのではないでしょうか? 広報PR担当者が、広報と広告の違いを正しく理解することは必須です。もしかすると、広報という言葉は現代のPRにおいて、不適切なのかも知れません。本記事では、よくある広報と広告の比較ではなく、4つの視点から解説していきます。
広告と広報の違いを語源、言葉の意味から知る
この章では、混合して使用されがちな広告と広報の違いについて語源と言葉の意味から理解を深めます。
日本語という視点で、広辞苑を引いてみました。
「広告とは」
(広辞苑)(advertisementの訳語として明治5年頃新たに造られた語)広く世間に告げ知らせること。特に、顧客を誘致するために、商品や興行物などについて、多くの人に知られるようにすること。
「広報とは」
(広辞苑)ひろく知らせること。また、そのしらせ。
(日本広報協会)「広報」の語源は英語の「パブリック・リレーションズ(Public Relations)」で、「情報等の相互発信によって、お互いの間にいい関係=信頼関係をつくっていくこと」。
当初は、PRの日本語として「弘報」「公報」「広報」などの字が当てられたが、やがて「広報」に統一されていった。
広告と広報は「広く知らせる」という点では同じ意味です。しかし、大きな違いは、広告は「広く知られるようにすること」広報は「広く知らせること」での違いがあります。まだちょっと分かりづらいですね。
別の角度から理解を深めるためマーケティングや広報が生まれた英語圏で使われる広告=「advertisement」と広報=「Public Relations」を深堀していきます。
広告は英語でAdvertisement
ad:方向へ vert:向きを変更する ise:する ment:こと
人の考えや行動を変えること。人に広く知られるように仕向ける。
広報は英語でPublic Relations
パブリックリレーションズ(Public Relations)とは、組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団)との望ましい関係を創り出すための考え方および行動のあり方である。19世紀末から20世紀にかけてアメリカで発展し、日本には第二次世界大戦後の1946年以降にアメリカから導入された。企業・官公庁・団体他、あらゆる組織の運営に欠くことのできない考え方といえる。パブリック・リレーションズについて、アメリカで教科書として定評がある『体系パブリック・リレーションズ』では、次のように定義されている。
「パブリック・リレーションズとは、組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能である。」
(引用:https://prsj.or.jp/aboutpr/)
組織を取り巻くステークホルダー(顧客、取引先、自治体、社員などの利害関係者)との“よい関係”を築くための対話がPublic Relations、広報の意図するところです。
つまり、
広告とは、人の行動や考えを変えるため多くの人に知られるようにすることであり、
広報とは、ステークホルダーとのよい信頼関係を作るためのコミュニケーションのことです。
続いて広告と広報が使われるシチュエーションからそれぞれの『目的』の違いを理解していきます。
広告と広報の違いを比較
広告と広報の違いを目的や手法、コントロール可能なのかなどから様々な比較をしてみます。
広告は健在層・潜在層に対し認知向上、売上向上を目的に行われます。顧客の目が多く集まる広告枠を購入し訴求しますが、掲載する広告内容は掲載する媒体、メディアなどによって異なります。広告代理店や広告制作会社に依頼し、狙ったターゲットに訴求できるよう適切な広告枠、適切な広告を作ることが大切です。広告を出稿する際は、このように広告代理店や制作会社に依頼して作ることが基本です。そのため、広告はコント―ルが可能です。
一方、広報PRは、信頼獲得、ブランディングを目的に行われます。メディアに取り上げられ信頼を獲得できると多くのことでメリットを得ることができます。無名の会社より有名な会社のほうが利用される(信用される)のはメディアという信頼できる第三者からの発信のためです。信頼を獲得することで営業面でもマーケティング面でもメリットを享受できます。
信用により取引が増えればやがて「〇〇で有名な会社」とブランディングにも繋がります。
広報の枠組みから広告との違いを理解する
広報の中には8つのコミュニケーション活動があります。
-危機管理広報-
災害、テロ、事件・事故、不祥事などのトラブルの際に、自社の社会的信用や損失を最小限に抑えることを目的とした広報活動です。不祥事や事故に関して主にメディアと対峙し、正確かつ迅速な情報提供により評判の回復に努めます。近年では、SNS(ソーシャルメディア)での炎上など、ステークホルダーが身近になったことで生じるリスクを管理するのも広報の役目です。
-地域広報-
地域住民との良好な関係を築くために行う広報活動です。店舗や支社を多く持つ小売店などによく見られます。地域の安全や、健康のために集会やイベントを開くことも1つの手法ですし、暮らしやすい街づくりのサポートのために自治体と連携して活動を行ったりもします。
-投資家広報-
IR=インベスター・リレーションズと呼ばれる活動で、上場企業や投資を受けたスタートアップ企業が主に行っています。投資家に対し、企業の成績表を正しく公開・説明し、信頼・関係性構築を目的としています。株主総会の開催は年に一度の大きな仕事ですが、常日頃から経理や総務と連携し、投資対象として魅力のある企業であることをアピールしていきます。
-既存顧客向けの広報-
今では当たり前になりましたが、アフターサービスやお客様のお問い合わせ先、サポートセンターなども既存顧客向けの広報活動に含まれます。顧客の購入データや情報を整理し、顧客が求めている情報を発信していくことで、顧客離れを防ぎ、口コミや紹介にもつなげていきます。営業や商品開発と連携
し、ファンとなっているお客様との信頼、関係性を構築するための重要な活動です。
-メディア広報-
広告宣伝、パブリシティ、インフォマーシャルなどマスメディアを通じてステークホルダーに訴求する広報活動や広告活動です。一般的に広報、広告、宣伝というとこのメディア広報を指すでしょう。
-大衆広報
パブリック・リレーションズ全般を指す言葉です。すべてのステークホルダーとの良好な関係性を構築するための活動です。経営陣との密なコミュニケーションを行うことで、企業のブランド構築を目的とします。
-公共広報-
CSR、CSVという言葉を聞いたことはありますか? CSRやCSVは寄付のイメージが強かったですが、近年ではSDGs経営という地球規模での社会利益と企業利益の両立を目指す広報活動に取り組む企業が増えています。社会的意義やサステナブルな社会を実現するために、既存ビジネスの修正や企業のあり方、働き方などを社外に発信することで、共感を得ることを目的としています。
-社内広報
社内の雰囲気向上や離職率の低下は、人事の課題です。しかし、広報においても従業員との信頼性・関係性を構築、維持するために社内に向けて情報発信をする広報活動として社内広報が一般的になっています。従業員向けには社内報、メール、イントラサイトなどで発信し、社がどの方向に向かっているか賛同を得てより企業の価値が高まるために活動します。
上記のコミュニケーション部門の中のメディア広報の中に、「広告・宣伝」は存在しています。広報と広告は言葉こそ似ていますが、非なるものです。広告は伝達手段であり、広報はコミュニケーション戦略であることから、広告は広報活動の中で「広く知らせる」という役割を行っていると考えられます。
広報PRと広告の共通点・相違点まとめ
広報と広告は近いところにありながら、根本的な概念が異なります。広報・広告は、いずれも社内外へのコミュニケーション手段・戦略として重要な役割を担っています。すべてのステークホルダーに広く知ってもらうために広報活動を行い、信用度を高め会社の商品やサービスに目を留めてもらいます。
信用度を高めることができたら、さらに売り上げを高めるため広告を出稿します。潜在層、顕在層の未認知層にアプローチするためです。カスタマージャーニーの一連の中で広報活動が行う役割、広告活動が行う役割を最大限活用することが大切です。いずれも効果を最大化するために大切なことは、「顧客視点」に立つことと言えるでしょう。