広報PRの専門家であるシェイプウィンでは、広報PRのKPI設定についてクライアントからアドバイスを求められることが多々あります。過去に、ASCII.jp共催 広報PRで成功するKPIの設定方法を伝授(2019/1/15)というセミナーを開催したところ、企業の規模によらずKPI設定について悩んでいるという広報担当者ばかりでした。また、広報サロン主催で『誰もが納得する広報PRのKPI設定入門(2020年9月17日開催)』でも20名近い参加があり、その課題に対する関心度の高さを伺えます。
広報PRにおける従来のKPIといえば、メディア露出した記事を広告の値段に換算する『広告換算価値』の合計やメディア掲載数、プレスリリースの発信本数などでしょうか。
KPIに何を設定したらいいですか? という質問に対しては「○○がよいです」と即答できるものではなく、営業戦略や広報PR戦略に沿ったKPIを個別に設計しているというのが現状です。そこで、シェイプウィンがPR支援をしているクライアントだけでなく、一般的に他の会社はどのようなKPIを設定しているのか聞いてみました。
広報PRの本場”アメリカ”でもKPIは迷走中
KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、目標達成に向けた重要指標のことです。月100社の新規顧客を獲得するという最終目標があった場合、その目標達成に向けた行動や中間成果を計測するための指標がKPIです。基本的には、カウントできるもの(定量的なもの)を設定します。
広報PRにおける『KPI』というのは世界的にも課題になっており、未だに答えがないのが現状です。アメリカ・シリコンバレーのスタートアップが日本進出をする際に、日本側の広報PR支援をシェイプウィンで実施したことがありました。アメリカのPR会社やスタートアップの経営者とミーティングをする中で「日本での広報PRにあたり、有効的なKPIは何がいいのか?」という質問をよく受けていました。反対にアメリカのKPIを聞いたところ「アメリカのKPIもころころ変わるし、しっくりくるものは今までなかった」というモヤモヤした返答ばかりでした。
スタートアップや外資系企業などに聞いた広報PRのKPI
世界的にも広報PRのKPIはこれ!という決め手となるKPIは、開発されていないのが現状です。しかし、多くの企業でマーケティング活動・広報活動におけるKPI設定がされています。シェイプウィンのクライアントだけでなく、スタートアップ・ベンチャー企業や外資系企業、日本企業、BtoC/BtoBなど4つのジャンルの企業に現状での広報PRのKPI設定を聞いてみました。今後のKPI設定のヒントになるかもしれません。
BtoC 外資系メーカー企業の広報PR KPI
外資系グローバルブランドのデジタル機器メーカーの担当者に聞きました。
——採用しているKPIは?
「年間のメディア掲載件数とレビュー記事の件数です。年々目標が高くなるのではなく、過去の経験値や年間の新製品発表数から本社が決定し、グローバルで統一したKPIを採用しています」
——そのKPIを採用した理由は?
「記事の件数については、メーカー名の露出回数(度合い)として考えられています。レビュー記事の件数の方が重視されています。レビュー記事は、メディアに興味を持ってもらい、プレスリリースから深掘りした記事として掲載してもらうため、結果的に企業とメディアとのリレーションの深さを示すものになると考えています。」
——KPI設定に対する課題は?
「記事の掲載件数やレビュー記事の件数は、商品自体が持っている定性的な魅力=メディアから見た魅力によって左右されます。メディアに刺さるかどうかは、広報の伝え方も重要ですが、結局は商品力になります。その点では、掲載件数やレビュー件数以外のKPIも検討すべきかと思っています。また、グローバル企業ならではの広報課題ですが、国によってテレビなのかネットなのか新聞なのか強力なメディアがそれぞれ異なります。テレビ1件の成果であってもレビュー記事の1件というカウントになるため、影響力を考慮したKPIも重要かと思います」
BtoC スタートアップ企業の広報PR KPI
国内教育系サービスのスタートアップの広報担当者に聞きました。
——採用しているKPIは?
「会社名またはサービス名で検索された指名検索数をGoogle Search Console(アクセス解析)で調べてKPIにしています。サービスを開始した当初は、関連キーワードの検索需要や流入数をKPIにしていましたが、名前が売れてきたため、現在は指名検索数がKPIです」
——そのKPIを採用した理由は?
「当社において、広報PRの役割は、業界やそういうジャンルのサービスがあるということの認知が最初でした。世の中にないサービスを売るためには、業界認知を先行して行う必要がありました。会社名やサービス名での検索は、何かしらの記事をみたり、友達から聞いたりしたときに発生する検索です。広報PRの効果として、認知・興味関心を持った人が増えていることを指標としています」
——KPI設定に対する課題:
「プレスリリースを書いたり、メディア露出をしたりした結果から指名検索数が伸びるまでには時間がかかります。テレビなどで取り上げられれば瞬間的に検索が増え、わかりやすいですが、ネットメディアや雑誌だとじわじわとしか効果が見えてきません。短期的にも計れるKPIが他にないか探しています」
BtoB 外資系IT企業の広報PR KPI
外資系ビジネスマッチング/コンタクト管理サービスの広報担当者に聞きました。
——採用しているKPIは?
「NPS(Net Promoter Score)を採用しています。NPSとは、企業や商品にどれだけ愛着があるか(顧客ロイヤルティ)を数値化した指標です。 ユーザー企業やイベント参加者に対してアンケートを実施して、定期的にNPSを計測しています」
——そのKPIを採用した理由は?
「BtoBだとメディア露出は少なめになってしまいます。1回のメディア露出による顧客へのインパクトを数値化するのは困難です。定期的なメディア露出から顧客の評価を上げていくことでブランドを作って行くという方針でNPSを採用しました。NPSによる顧客の評価は、メディアでの露出回数や露出内容が自然と反映されますので、定性的な戦略にも反映すると考えています」
——KPI設定に対する課題は?
「NPSと広報PR活動との因果関係です。NPSは、メディアで取り上げられたから上がるものではなく、セミナーの内容や営業が接触したときの感触など広報PR以外の要素があります。また、NPSを上げるための活動KPIや広報活動だけで計測できるKPI設定も課題です」
BtoB スタートアップ企業の広報PR KPI
国内のハードウェアスタートアップの広報担当者に聞きました。
——採用しているKPIは?
「今までプレスリリースによるメディア露出か、メディアから問い合わせのある受け身のメディア露出しかなかったため、プレスリリース以外で自ら仕掛けたメディア露出記事の本数をKPIとして設定しています。ターゲットとする主要メディアが20媒体程度なので、月1回ペースで掲載されるとして3ヵ月に3本掲載されるペースで攻めの広報PRをしています」
——そのKPIを採用した理由は?
「プレスリリースの有無は、広報だけでは決められず、経営方針や開発の進捗に大きく左右されます。プレスリリースを○本打つと決めていても実際には達成できないことがほとんどです。プレスリリース以外で自ら仕掛けたメディア露出記事の本数をKPIとすることで、ターゲットメディアの選定やメディアに持ち込むペース、プレスリリース以外のニュースのネタだし(社員や導入事例など)の数も自動的に活動KPIとして設定できます」
——KPI設定に対する課題は?
「自らがメディアに持ち込んだ記事の本数となると、KPI未達の時にどうしても掲載内容よりも掲載の有無が気になってきます。会社にとって、このメディア露出がどのような意味があるのかなど目的と手段が入れ替わらないように活動することが重要になってきます」
結局、広報PRのKPIはどうしたらいいのか?
その答えは、ありません!
他にも広報やマーケター、CMOなどたくさんの人に、設定しているKPIをインタビューしました。中には、KPIは一切設定していない。そもそも定性的な広報PR活動を定量的に判断するのが間違っているという意見の方もいました。
しかし、事業活動の継続として直接的な因果関係や効果を示すことが難しいにしても、なにかしらのKPIや定量的な目標があった方がよいでしょう。社内の評価で必要なくても、株主などのステークホルダーへの説明が必要な場面もでてきます。
KPI設定についてインタビューした結果から分かるとおり、会社によって設定しているKPIやその背景・理由は様々です。面としてメディア露出を取る戦略であれば、メディア露出数・掲載数は重要なKPIとなってきます。ファンを育てていく、なかったものを理解してもらうという戦略であれば、中身の濃い記事の露出が必要であり、自ら仕掛けたメディア露出数はKPIとしてわかりやすいものです。また、ネットサービスであれば、新規顧客の獲得はホームページが接点となるケースが多いため、業界やキーワードを知ってもらう、指名検索をしてもらうということがKPIとして追求すべきものになります。
広報PRのKPIについては、他にもいろいろな考えやケーススタディがありますので、ぜひシェイプウィンのセミナーや相談会で質問していただければと思います。様々な会社のKPI設定を参考にしてどのKPIを採用するのか検討してみてください。また、KPI設定においては、そのKPI設定をした背景・理由を論理的に説明できるようにしておくと、メンバーや外部パートナーとの意思疎通もしやすくなります。KPI設定は戦略により変動するというのがKPI設定の答えです。