読書のためのテクニック、ノウハウについての著書(読書術)を読むのは初めてなのですが、よい読書体験となりました。
大型書店のビジネス書売り場に立ち寄ると、読書術や読書法など方法論(テクニック、ノウハウなど)コーナーがあり、その刊行点数の多さに驚きます。速読などはもちろん別インデックスで、それよりもさらに速い瞬読というテクニックまであることに驚きます。
多忙な現代ビジネスマンにとって、少ない時間にできるだけ多くの本を読みたいという気持ちは十分に理解できます。ビジネスパーソンに速読術の人気が高いのは、実にもっともなことです。
読むべき本を選ぶため、ビジネス雑誌などの書評、ほかにもアマゾンのレビュー、本の要約サービスサイト、ソーシャルリーディングなどにアクセスしてそれらを参考にしながら、みなさんも“読むべき本”を選んでいるのではないでしょうか。
なにせ年間5,000点以上も刊行されているビジネス書洪水のなか、どうしてもビジネス書のナビゲーターが必要だとおそらく誰でもが感じているからです。
今回ご紹介するのは、ビジネス書の要約サイト“bookvinegar”代表の坂本さん初の著書です。すでに本書の要約もご覧になれます。また私の長い書評エッセイなどより、一般的な書評をお望みの方は『ダ・ヴィンチ』の書評を参考にしてくださればと思います。
なお本書は、ありがたくも出版社よりご恵贈いただきました。
著者は、まずスキマ時間をうまく活用することを提案しています。スキマ時間ができると、ついついスマートフォンに手が伸びてしまう誘惑あるいは慣習から、読書のため時間を少しでも割り当てる決意=覚悟がまずは必要です。
スキマ時間は、電車の移動時間のほかにもあります。私は昼食後の空き時間は必ず書店で過ごし、帰宅前にも立ち寄るようにしていました。また、人との待ち合わせ場所には書店を指定します。かりに、相手方がなにかの都合で約束の時間に間に合わなかったとしても、書店であれば本を探しながら過ごせますし、思わぬ本や著者とめぐり会う機会があるかもしれないからです。
読書において「一番大切なこと」
本を読むメリットは、新しい知識や情報が得られることで、多くの人が読書する一番の理由です。しかし、膨大な情報がネットに溢れている今日、何かについてたんに知りたいだけであれば、それらで十分かもしれません。
むしろ読書おいて一番大切なことは、その人がこれまでに得てきた知見について、著者によって体系的にそれらが構成されている、そのことで新たな発見(気づき)、自分自身の考え方や方法論の是非や可否について確認できる、さらにその著書から読者本人の知見について確信を深める手伝いまでしてくれることです。
つまり、「予習」としてではなく「復習」のための読書がより有用で重要ということなのですが、前者のためだけに本を読む人がほとんどです。
しかも、読書をつうじてその人の思考力が鍛えられ、アウトプット力までも高めてくれるという一石二鳥以上の効果をもたらしてくれます。それこそが、読書によって養われるもっとも大切なスキルであり、その意義と価値だと私は考えています。
“bookvinegar”と著者について
ビジネス書の要約サービス“bookvinegar”との出会いは、2011年に参加したベンチャー企業の集まりでした。この1ヶ月前に立ち上げたばかりのほやほやのスタートアップだと、代表の坂本さんは話をしてくれました。
サービス内容を聞いて、私は大いに興味を持ちました。
現在では、本の要約や紹介サービスはほかにもあります(本書第4章でもいくつか紹介されています)が、当時(2011年)では類似のサービスはなかったように記憶しています(私が無知で、ほかを知らないだけだったのかもしれませんが)。
私が興味を覚えたのは、下記の3つのポイントです。
(1)刊行点数が増え続けるビジネス関連書籍だけにフォーカスする
(2)良書と判断した著書だけを選定する
(3)いわゆる自己啓発本の類いは取り上げない
上記の3点を聞き、ポジショニングがとても明確だという印象を受けたのです。
代表の坂本さんは、当時から年間300、400冊以上のビジネス書を読んでいました。それでも、ビジネス書の年間刊行点数を全体からすれば、その10%にも満たない量です。しかも、本の要約作業をすべてご自身でなさっているということに、私はとても驚きました。
ただ、ご自身で良書だと判断して紹介してはいても、本当に読んでよかったと思える良書は実に少ないという言葉に私はとても納得しました。
“bookvinegar”の特長は、章ごとの重要度、読書時間の目安、その著書に影響を与えた本のリスト(これはありがたい)、推薦ポイント(評価軸も便利)などで構成され、私の書評などとは違ってほとんど客観的な本の要約に集約されている点です。
ですから、同サイトで紹介されている本を何冊か読むうちに、自分にとっての推薦ポイントを把握することができます。
そうすると、その自己ポイントを基準にした本だけをピックアップすれば、自分が読むべきではなかった本に手を出す確率がぐっと低くなります。ちなみに、私の推奨基準は8ポイント以上です。
何年もお目にかかる機会がなくてとても残念に思っていますが、こうしてご著書も刊行され、今後ますますユーザーを増やし続けていくに違いありません。
「エッセンス・リーディング」は速読ではない
第2章、主題である「エッセンス・リーディング」について8つの方法論が紹介されています。著者が、ほぼ毎日コンテンツをアップするために体得した効率的な読書技法で、それらをまとめたものです。
誤解がないように最初に申し上げておきますと、「エッセンス・リーディング」は新しい速読術ではありませんし、著者もそのように明言しています。
「エッセンス・リーディング」を一言でいえば、本の内容にも濃淡があり、その濃い重要な部分(章)=エッセンスを抽出した濃密な読書を可能とすることです。その8つは下記です。
(1)目次で本に何が書いてあるのか把握する
(2)「はじめに」と「第1章」は理解できるスピードで読む
(3)タイトルに関連する箇所を重点的に読む
(4)太字は必ず読む
(5)事例は流し読みする
(6)章ごとの「まとめ」確認する
(7)重要と思った箇所をマークする
(8)「おわりに」をチェックする
(2)は、著書の重要なことの8割が書かれていると語ります。
私は、ほとんどの本を書店で購入するようにしています。それは、書店であれば、その本を買うべきか否か実際に確認してから判断できるからです。
どのような基準で私は本を選ぶのかといえば、タイトルあるいは著者→はじめに(まえがき)→目次、あとがきなどを順次チェックします。
その著者の執筆動機や理由を把握し、目次のなかで私が一番関心の高い項目や章を探し出してそこを読みます。そこに自分にとっての気づきや示唆、あるいは納得できる箇所があれば、その本は買ってもそれほど外さないだろうという判断が働きます。また、著書によっては執筆者がどういう人なのか、念のためにその過去の著作や略歴についても確認します。
(5)は、私もどちらかといえば流し読みするほうです。それというのも邦訳書を読むことが多いので、国内に当てはめて考えた場合には事例によってはなじまない、その国だからこそ成立するビジネス環境もあるからです。ですから、たとえば業務に参考にしたい、また他社のケーススタディからなにかヒントを得たいという場合、むしろビジネス誌(週刊誌や月刊誌)の特集号あるいはネット検索などで国内の最新事例を探すほうが賢明です。
(7)は、重要なポイントについてはマーカーを使う人と付箋利用者がいるでしょうし、ほかにも重要なページの端を折る人もいます。私は付箋派で、使用するのも「ポストイットジョーブ透明見出しパワーパック6832M」か「6832NE」と決めています。
良書と出会う秘訣
さて、読書術とは本来は選書(本を選ぶこと)からはじまるものです。多忙なビジネスパーソンにしてみれば、玉石混淆の書籍の中から読書はお金も時間も投資するのでできるだけ短時間で大きなリターンが欲しいわけです。限られた時間とお金のなかで、読んで後悔する本に手を出すリスクは避けたいと誰でもが願うことです。
第4章では、読んでからその「しまった!」と後悔しないための本の選び方について7つの技法を伝授しています。
著者自身【神・読書スキル25】で「100冊の凡庸な本より、しっかりとした1冊を選ぶ。」あるいは【神・読書スキル27】「ハズレ本に時間を費やさないために、本選びにこそ時間をかける。」と述べています。
なにかの記事だったか誰かの著書のタイトルだったかはすでに覚えてはいないのですが、「新刊のビジネス書の9割は読む必要がない」というような過激な言葉があるほどなのです。
私は、基本的にはベストセラーあるいは話題や旬な本にはほとんど関心がありません。それらは書評も数多く、そのテーマについてさまざまな人たちによる記事も読み切れないほど出回り、雑誌でも特集が組まれるほどです。しかし、未読なことで私にとって不都合の可能性があると判断すればもちろん読みます。
それよりも、話題性などと無縁で書評などでも取り上げられない、“自分にとっての良書”を発見したときが読書のなによりの歓びです。
また、タイトルや帯の惹句(コピーなど)にひかれて手にとっても、上記で述べた私の選書基準に従って買うか否かを判断します。もちろんアマゾンや雑誌や新聞の書評、レビューサイトなども購入するときには念のために確認しますが、それはあくまでも参考情報にすぎません。人は読書するとき本を選びますが、その逆もまた真なのです。つまり、本も読者を選ぶのです。
本書ではそのほか、知識の定着を増す方法=インプット力の強化テクニック(第5章)、さらには著者が主催する読書会『朝、カフェで読書会』の運営エピソード、アウトプットの工夫によるヒントや示唆(第6章)、読書の意義と価値(終章)などについても語られています。
「【イベントレポート】「読書会のすすめ」ーー第3回東京読書サミットに参加して」でも実感したことですが、読書会の主役は本ではなくそこに集まる人だと私は述べたのですが、【神・読書スキル41】「読書会の質は本ではなく人で決まる。」という言葉には、あらためてそうなのだなと納得しました。
なお、読書会の運営や主催をご検討されている人は、拙稿「続・読書会のすすめーー盛り上がる運営に欠かせない5つのポイントとは」もあわせてご高覧がかなえば、気づきやヒントに資するかと存じます。
読書上達へのエッセンスを網羅
本書は、著者が“bookvinegar”を運営するなかで、年間数百冊もの本を読む必要から読書の効率化に迫られ、ここで述べられている技法を実践してきたことがまとめられています。習い事もそうですが、習熟する(うまくなる)につれてそれは「技」となります。本書は、読書の「技」の身につけ方を具体的かつ親切に教えてくれます。
しかも、たんに本を速く読めるようになるだけではなく、本の選び方(選書法)、本から得たたことの活かし方、その強化法(アウトプットなど)、さらには拡張のさせ方(読書会運営にコツ)にいたるまで、豊かな読書生活をおくるためのエッセンスと技が詰め込まれています。
今回、私の読書体験で得てきたこととも共通する点が多く得心しながら読みました。上記の「一番大切なこと」でいえば、本書は私個人の知見について確認と確信を得るための「復習」の読書になったことがとても有意義でした。
ところで、第3章「【レベル別】4段階ステップ読書法」(初級/中級/上級/プロ級)の判定によると、意識だけは「プロ級」(週3冊以上読む、同じような本が多いと感じる)だと思い込んでいたのですが、月に1〜2冊ほどの私の読書レベルの状況は中級者だということが判明し、読書においては「自己認識」と「レベル」との間には実際にはかなり乖離があるのだということを知ることができました。
読書を習慣にしている人たちは、著者も語っているようにいくつかのことがらを意識的か無意識的に類似した方法や手順を実践しているのではないでしょうか。
本書の読書術はビジネス書に関するかぎり、その洪水のなかを上手く泳ぐ方法として読書を最適化するための技がいくつも披露されています。
私は、ひとつだけ最後にお伝えたいことがあります。
それは、著書のエッセンスは人によって異なるということです。人は、それぞれ知識、経験、思考力に違いがあります。著者がそのつもりで著し、それを読んだ大多数の読者にとってエッセンスでも、“ある人”たちにはそうではないことも“ありうる”ということです。
つまり著書の濃淡でいえば、薄い部分で著者が何気なく述べたことが“ある人”たちにとって、気づきとヒントあるいはひらめきをもたらすことが“ありうる”のも、まがうことなき真実だということです。
なんといっても、読書の半分は読者自身によってつくられる、という言葉を常にこころにとめておきましょう。
みなさんも、本書に書かれていることのうち、“すべきこと”から少しずつ実践することで、効率的かつ効果的で意義ある読書にすることがきっとできるようになるでしょう。