人が読書をする理由は、十人十色です。ところで、みなさんはその「きっかけ」となった著書や著者について覚えているでしょうか。「きっかけ」と理由は異なるものです。
小中学生あるいは高校生であればなにかの授業中(例:国語や歴史など)で知った、大学生であればゼミの恩師など、社会人であれば上司のすすめかもしれません。ほかにも、誰か著名人が推奨していた、なにかイベントに参加したおりに知り合った人から教えられたということもあるかもしれません。
ところで、読書家としても知られているライフネット生命の元会長(現・立命館アジア太平洋大学学長)の出口さんから、「なにを読んだらいいのかわからない」あるいは「なにを読んだらいいでしょうか」と悩んでいる人たちが多く、よく相談を受けるという話しを幾度か聞いていました。そうしたとき出口さんは、新聞の書評欄を見て興味を引いた本を見つけたらそれから読みはじめるようにと返答しています。
読書への入り口=きっかけとしては、読書会への参加はとてもよい場です。昨年のイベントレポート「読書会のすすめーー第3回東京読書サミットに参加して」は、そうした読むべき本を求めている人たちにも参考となればという願いもあり、「5つのメリット」として読書会への興味を喚起する記事となればと願いながら書きました。
そのとき、読書会運営面でのポイントについて述べることができませんでした。今回はその続編として、すでに読書会を主催しているまたはこれから運営を検討している人たちに参考となればと考え、そのメリットや留意点などについて私自身の経験などを語ることで、もしもこの拙稿がお役に立つことがあれば嬉しく思います。
読書会のタイプ
読書会が人気だと注目されるようになったのは2014年ごろからで、「静かなブーム、読書会の魅力って?」や「“若者の本離れ”はウソ!?「読書会」がジワッと人気なワケ」が、そうした事情を伝えています。翌2015年1月6日号『週刊エコノミスト』では「読書会ブームが来た!」という特集まで組まれるほどです。
一口に読書会といっても、実に多種多様です。おそらく、SNSなどを活用して個人や任意のグループ活動が数多く存在し、全国に読書会が一体いくつあるのかは不明です。公益社団法人読書推進運動協議会が、各都道府県立中央図書館を通じ、全国の公共図書館(および関連機関)に依頼した調査資料「2018年度全国読書グループ調査」(その地域ごとの届け出のある読書グループ数)があるだけで、実際の活動グループ数は正確には把握できていません。
さて、読書会は大きく分類すると、基本的には2つのタイプがあります。
1つは、課題図書が決められていてそれを全員が読んでおき、参加者同士で意見を交換し合うタイプ。これは、読書会に参加しようと思えば否応なしに読まねばなりませんし、同じ本を読んでいることで意見や情報交換、コミュニケーションなどが活発になります。
このタイプは、特定のテーマ(旬な話題から社会問題まで)やビジネスに役立つこと(マーケティングや経営戦略など)を目的にした会もあれば、たんなる趣味的な本の会もあります。
2つは、参加者各人が読んだ本をおのおの持ち寄り、その本の紹介を兼ねて感想をシェアするタイプ。これは、それぞれの参加者が自分の興味や関心、あるいは人に読むことをすすめたい本を紹介するような多様性が出てきます。
話題のビジネス本、好きな作家の本、エッセイやコラムから趣味の本などジャンルは問いません。会によっては、「ビブリオバトル」(書評合戦)を取り入れているところもあります。
こうした読書会の活動は、週末を利用する、平日の朝活として出勤前に開催されているものなど、活動方法も実に様々です。私個人の経験から述べれば、両方のタイプがバランスよく行われるのが理想だと思います。
つまり、いつもは特定のテーマで読書会を開催しながらも、年に数度ほどは参加者各人が読んで他者にすすめたい著書を紹介する会を開催する、というようなことです。また逆に、普段は持ち寄りとしながらも、ときには特定のテーマで事前に読んでいることを条件にした会を実施するということです。
それは、ルーティン化した集まりに変化をもたらすメリットだけではなく、さらには分科会などへと発展させることも期待できます。それが先述したように、特定分野だけの読書会より多様性のある方が良いのではないかと、私が個人的に考えている理由です。
とにかく、多様で広くあるいは専門的に深くかをむやみに悩む必要性はありません。
読書会運営の前に考えるべき3つのポイント
さて、一人の読書から人との交流を含めた読書会を始めようと考える場合、運営方法をどうするかも大事なのですが、それより前に重要な3つのポイント(心構え)あります。
(ポイント1)なぜ読書会を開催するのか
なぜ読書会なのか。その理由が明確なのかを考えることです。経営学者として有名なドラッカーも、HowやWhatよりも、Whyを問うことの重要性を指摘しています。
(ポイント2)グループではなくコミュニティ
最初は友人や仲間たちに声をかけて開催することになりますが、それはある目的のための集まりには違いありませんが、たんなる同好の士によるグループではなくコミュニティという意識が必要です。
なお、コミュニティ運営のポイントについては拙稿「コミュニティ運営における「3つのレッスン」ーーJapan NYC Startups Meetup運営者を招いて〜ニューヨークでのミートアップ運営で学んだこと」を、あわせてご参照願えれば嬉しく存じます。
(ポイント3)社内か社外か
企業内の人たちだけか、社外の人たちと一緒に会を開催するのかです。どちらを選択するにしても、上記2つのポイントの重要性は同じです。むしろ留意すべきは、社内読書会で参加を呼びかけるときに強要や強制をしないことです。かりにあなたが上司で発案者だとして、部下全員参加を求めるべきではありません。10人に声をかけて、参加者が3人だったとしてもそこからはじめましょう。
読書会運営における5つのポイント
上記の3つのポイントが明確になったら、いよいよ運営開始ですその場合、下記の5項目がキーポイントになると考えています。
(ポイント1)読書会のポリシーを明確にする
数人の少人数ではじめるときはそれほど問題ではありませんが、会への参加者が多くなったり分科会をつくる必要がでてきたりしたときなど、役割分担して組織的な運営の必要性が出てきます。
そうした場合も想定し、会のポリシーを全員で共有しておくことが必要です。また参加者が増え続けると、参加動機や思惑などが様々となります。最初に会のポリシーや目的を明確にしておくことで、そこから思わぬ方向になるまたは踏みはずした会になってしまうことを防ぐと同時に、参加者に対しても会としてあり方を的確に伝えることができます。
さらに、多様で広くまたは専門特化で深くかは最初に明確に決めておき、参加者全員がそのことをきちんと意識として共有しておくことも忘れないようにします。
(ポイント2)規模は追わないこと
これはSNSの友達の数にもいえることなのですが、数の規模は追わないことです。つまり、自然増に委ねるのです。参加者が増えて会が大きくなり、発展するようになるとさらに規模を拡大したいという誘惑は避けがたいものです。これは企業(事業)でも同様です。
さらに規模が大きくなれば、会場の問題や運営方法などに支障を来すようになってしまうと本末転倒になってしまいます。
(ポイント3)オープン型かクローズド型か
これは、上記のポイント1とも関連します。オープンな会として「来るもの拒まず」で運営するのか、それとも最初から参加目的が明確である人だけの集まりにするのかです。たとえば、参加条件として友人や知人の紹介などを必要とするクローズドな会とするかなどです。後者の場合、当然参加するにはハードルを設けることになりますので、参加者自体がかなり絞り込まれ(限定され)ます。
(ポイント4)分科会について
会として、もしも分科会の必要性が出てきたとき、それを同じ会の中で実施するのかそれとも会とは別途外で行うのかです。どちらの場合にしても、分科会の発案(提案)者がそれを運営主体(責任者)として会の運営にあたることです。
(ポイント5)会場の問題
片手で数えるほどの数人による小規模な開催であれば、カフェなどを利用して開催できるでしょう。しかし、毎回数十人規模ともなれば開催場所に苦労します。
企業内の読書会であれば、会議室など使えるメリットもありますが、社外の集まりの場合は開催場所を恒常的に確保することは難しいことはだれもが直面する課題です。
公共(都内であれば区など)の施設の会議室は安価で利用できますし、ベンチャー企業やコワークキングスペースなどでは無償でイベント会場を提供しているところも増えてはいます。私が参加してきたイベントのいくつかも、そうした会場で開催されています。
ただし、そうした会場を利用するにはそれぞれ提供者側の条件があります。とくに多いのが、無償条件としてのいわゆる「IT系の勉強会」に限定されていることです。それ以外の集まりでの利用には、残念ながら「つれない」状況があります。
また、読書会というのは本が主役のようでありながら、陰の主役は人なのだというのが私の実感です。会の終了後、交流会を開催することも忘れてはなりません。会場の問題もありますが、できれば場所を居酒屋などに移すよりその場の熱気のまま交流会に進むのが理想的です。
さて、上記の5つのポイントのほかにも、年1回程度の特別イベントの開催もおすすめします。これにも2つの方法があります。
1つは、いつもの定例の読書会から離れ、情報交換やコミュニケーションを目的に交流を主体に行います。会場は、これも居酒屋などよりはできればいつも利用している会場で、飲食はデリバリーですませるほうがよいでしょう。
2つは、読書会に関連したテーマ設定での特別イベントです。例えば、いつもとは異なる外部から講演者を招いてのシンポジウムやワークショップなど、参加者も読書会の人たちに限定せずオープン参加で行います。それにより読書会を知ってもらうあるいは参加する「きっかけ」を創出する機会ともなります。こうしたイベントについては「ネット社会で、改めてリアルな場、リアルなコミュニケーションの意義について考えた〜10 over 9 reading club 2014年活動を振り返って」を参照していただければ幸甚に存じます。
さて、ここまで読んできた人は、気軽に参加するよりやはり主催するほうが大変だということは理解したでしょう。しかも、継続(定期)的に開催するとなれば、それなりに労力が必要です。
それにもかかわらず、読書会を主催すると新たな本(著者)の発見、好奇心や知的な関心の喚起、人との出会いなど、主催者にとっても参加者にとっても様々な恩恵をもたらすことについて、私自身は確信をもって言えます。
私は、読書というのは自己自身と著書(著者)に向き合うことだと長らく考えていました。
それが読書会への参加、主催者の支援や協力などを通じ、読書のあらたな楽しみ方や読書会のもつ意義や価値を実感しました。
最後に、ここで私が語っていることを読んだみなさんは、上記のポイントは読書会の運営だけにかぎらずどのような集まりの運営にも当てはまるのではないだろうか、ということに気がつかれた人も多いのではないでしょうか。
それが、比較的ゆるいミートアップであろうともメンバー志向が強い定期的な集まりでも同じことがコミュニティ運営のポイントについては共通することだろうと、私個人は考えています。
それでは、今後のみなさまの楽しく有意義な読書会の運営に、本記事が少しでも参考となることをこころより願って。