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新年度を迎えて広報PRパーソンが読むべき本8冊+α

この本は以前から知っていたのですが、なかなか手にすることがありませんでした。巻頭の特別寄稿には『キャズム』のジェフリー・ムーアだということをはじめて知り、早速購入しました。

ムーアは、次のように述べています。

“インターネットが広く普及し、どんな情報でも簡単に手に入るようになった。そんなふうに思えるこの時代に、今でもビジネス書を読む人など本当にいるのだろうか。

私のような立場の人間は、今の時代だからこそ、いつもそういう猜疑心に苛まれながら、それでもビジネス書を書き続けている。そこで「いろんなところで大変革をもたらすイノベーションが生まれている、今の時代だからこそ、なおさらビジネス書を読む意味がある」”

その内容を確認すると、デジタルマーケティングに関連する本ばかりをピックアップしているのだろうと勝手に推測していたのですが、さまざまな執筆陣による思いのほか広範囲な著書を紹介しています。マーケティングの古典的名著、アドテクノロジー、統計学はもちろんのこと、経済からSF小説まで多彩に網羅されています。

平成最後の新年度がはじまるこの季節、多くの企業では新たなビジネスパーソンが誕生します。そうしたなかにはPR部門に配属される人、またPR企業に就職した人もいることでしょう。

そこで、同書に倣って「PRパーソンが読むべき8冊+α」という趣で、これから新社会人としてPR業務にたずさわる人たちに、読むことで今後の仕事に有益だろうと思われる8冊を勝手にピックアップしました。プラスαでは、これまで本ブログで紹介した書評とマーケティングエッセイなど、参考としていただけるような記事をテーマ別にご紹介いたします。

本記事は、基本的にはPRにたずさわる人たちを想定して本を選びました。もちろんマーケティングコミュニケーション全般にかかわる人たちだれにとっても益するだろうと確信しています。また、ここで取り上げた本と関連して文中で紹介する本、プラスαの書評本も含めると当然ながら8冊以上になりますが、そのことはあらかじめご了承くださりたくお願いをいたします。さらにこれはまったくの私的な選書で、出版されている著書すべてを把握しているわけではなく、知ることはもとより読むとなればどうしても限界があります。

また、下記の紹介する本はかならずしも新刊ではありません。それでも、読んでおくことで学びや今後の仕事に役立つだろうと判断しています。なかには、一般書店ではすでに入手できない本もありますが、今日ではアマゾンやブックオフのおかげで、全国どこでからでも手軽にしかも安価にビジネス書が入手可能で便利な時代なので、あえてそうした点は無視しています。

さらに、この記事を読んでくださる人たちのなかには現在業務にたずさわっている人で、すでに刊行当時に読んだ人が多いかもしれないこと、そのこともご承知のうえでお読みくださるようあわせてお願いを申し上げます。

PRパーソンが読むべき8冊

)『パブリックリレーションズ<第2版>戦略広報を実現するリレーションシップマネージメント』(著者:井之上喬)
(1)『パブリックリレーションズ<第2版>戦略広報を実現するリレーションシップマネージメント』(著者:井之上喬)

日本では、学生時代にPRについてきちんと学べる場はほとんどありません。本書は、学生向けの教科書として執筆された著書で、PRの歴史なども含めて全体を体系的に把握するためには絶好のテキストです。著者は、国内のPR業界を長らく牽引し歴史と伝統ある井之上パブリックリレーションズ代表者です。

本書はその第2版で、SNSを中心としたソーシャルメディア普及によるコミュニケーション環境の進展と変化も勘案し、アップデートされた内容です。著者は長年の実務経験と研鑽の成果として、PRにおける「自己修正モデル」という独自のフレームワークを構築し提唱しています。

自己修正とは、倫理観と双方向性コミュニケーションにもとづくもので、外部圧力(メディアや社会からの批判や同調圧力など)による仕方がなく変更するのではなく、自ら間違いや企業行動を改める心構えの重要性を説いています。

(2)『新しいPRの教科書』(著者:ブライアン・ソリス、ディアドレ・ブレーケンリッジ)
(2)『新しいPRの教科書』(著者:ブライアン・ソリス、ディアドレ・ブレーケンリッジ)

原題は“Putting the Public Back in Public Relations:How
Social Media Reinventing the Aging Business of PR”で、意訳すれば「PRを本来のあるべき(本来の)姿に戻す:ソーシャルメディアはPRビジネス時代をどう再発明(改革)したのか」です。本書を貫くテーマは、「PRは情報を発信する単なる仕組みから、人々との対話に参加できる「生きた存在」になりつつある。」という言葉に集約されています。

著書に一人であるブライアン・ソリスは、シリコンバレーを拠点とするPR企業フューチャーワークス代表で、世界的に有名なカンファレンスであるTED、SXSWの基調講演者としても知られています。またソリスのブログは、「世界で最も影響力のあるマーケティングブログ」のひとつに選ばれ、さらには2010年のCRM Market Awards でカスタマー・リレーションシップ・マネージメントにおいて最も影響力のあるリーダーとして表彰されるほどです。

今回、本書とソリス単独による著書『エフェクト〜消費者がつながり、情報共有する時代に適応せよ!』のどちらにするかずいぶん悩みました。もちろん、こちらもあわせて併読することをおすすめします。

(3)『マーケティングとPRの実践ウェブ戦略』(著者:デビッド・マーマン・スコット)
(3)マーケティングとPRの実践ウェブ戦略(著者:デビッド・マーマン・スコット)

原題は“The New Rules of Marketing & PR”です。著者は、デビッド・マーマン・スコットです。彼の著書としては、Hubspotの創業者ブライアン・ハリガンとの共著『グレイトフル・デッドに学ぶマーケティング』のほうが、日本では知られているでしょう。

本書は、ウェブがいかにマーケティングコミュニケーション、それもPRにとって大変革だったかがわかりますし、そうした事情はアメリカでもこの10年あまりのことだということも理解できます。パート3では、アクションプランについてくわしく具体的書かれており、これから実際の業務に携わる人たちには予習として大いに参考となるでしょう。

(4)『グランズウェル:ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』(著者:シャーリーン・リー、ジョシュ・バーノフ)
(4)『グランズウェル:ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』(著者:シャーリーン・リー、ジョシュ・バーノフ)

本書は、ソーシャルテクノロジー(ソーシャルメディア)について、本格的に論じた最初の著書で、ソーシャルメディアを高らかに宣言する書として各方面から歓迎されました。グランズウェル(大きな社会的なうねり)は「不可逆な重大な変化」で、本書ではおもに企業と消費者の関係性(つながり)について述べられています。

気がつけば日常的にソーシャルメディア活用している今日だからこそ、あらためて読むべきでしょう。刊行当時、ソーシャルメディアのたんなる教科書ではなく、ソーシャルテクノロジーの“思想書”として読んだ人は、はたしてどれほどいるのでしょうか。

本書で語られていることと現在とに違いがあるとすれば、「顧客を会社の協力者に変える」は「市民を悪意ある第三者の協力者に変える」ためにフェイクニュースに利用され、フィルターバブルがもたらすポピュリズムなどを“目覚めさせてしまった”ことで、残念ながらわたしたちが直面しているもっと喫緊な課題ともなっていることです。

なお、続編ともいうべき『エンパワード〜ソーシャルメディアを最大活用する組織体制』『ドラゴンエフェクト〜ソーシャルメディアで世界を変える』もあわせて読むことをおすすめします。

(5)『インターネット的』(著者:糸井重里)
(5)『インターネット的』(著者:糸井重里)

このエッセイは、刊行時(2001年)は私もまったく知りませんでした。記事自体、1997年から書き始めたもので、インターネットの黎明期のものです。しかし、本書は発売当時にはまったく売れなかったそうで、その理由はインターネットの素晴らしさと可能性を語りながらも、インターネットの熱狂に酔わずにいられたことだと述べているのが印象的です。

本書は、インターネットそのものではなく「的」なことについて淡々とした口調で語ります。その根底には、インターネットについてポジティブに語りながらも、それがライフスタイルや価値観を変えることはあるだろうが、人間の本質(本性)は根本的には変わることがないという怜悧な視点があります。現今の世界情況を勘案すると、実に的を射たことだと感じます。

だからこそ、2001年に新書として発売され、10年以上のときをへて一種の“預言書”として再評価されて文庫化されたたとのこと。なお、文庫化するに際し、「続・インターネット的」が加筆されています。

(6)『ビッグデータの憂鬱』(著者:森健)
(6)『ビッグデータの憂鬱』(著者:森健)

著者は、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しているジャーナリストです。本書は、「ITは人を幸せにするか」というウェブ上での連載が元で、2005年に『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?ーー情報化社会がもたらした「リスク社会」の行方』として発売されました。当時は、梅田望夫著『ウェブ進化論』(2006年)が話題で、同書が世間で大いに歓迎されていた時期です。それが7年たって加筆し改題し、文庫化された本です。

今回の文庫化にさいし、20ページ近い「序章」と「あとがき」が新たに書かれているだけで、本論は執筆当時のままです。

本書も例外ではないのですが、個別的に取り上げられているいくつかの事例というのは古いものです。しかし重要なのはそうした事例ではなく、著者の視点からそこで提起されていることを読みとることが大切なことだということに、きっと異論をはさむ人はいないでしょう。

(7)『フィルターバブル〜インターネットが隠していること』(著者:イーライ・パリサー)
(7)『フィルターバブル〜インターネットが隠していること』(著者:イーライ・パリサー)

本書が刊行された年(原著:2011年)は、ソーシャルメディアにとって大きな転換年となりました。前年にはチュニジアからはじまる「アラブの春」と呼ばれた反政府デモが中東諸国で起こり、当時の政権が前例のないドミノ倒しのように崩壊しました。

そこではツイッターやフェイスブックなど、ソーシャルメディアの恩恵による民主化だとだれもが喝采し、その後の混乱のことなどは考えもしませんでした。しかし、これは1989年のベルリンの壁崩壊、その後に続く東欧諸国の混乱の歴史的教訓は忘れられていたことを、私たちは思い出すでしょう。歴史は繰り返すのです。

検索とソーシャルメディアは、今日では誰にとっても特別なことではなくごくありふれた日常的な行動です。

フィルターバブルとつながりは、スマートフォンによってさらに加速しました。いまこそあらためて、本書は読まれるべきだと感じます。

(8)『減速思考〜デジタル時代を賢く生き抜く知恵』(著者:リチャード・ワトソン)
(8)『減速思考〜デジタル時代を賢く生き抜く知恵』(著者:リチャード・ワトソン)

原題は“Future Minds:How The Digital Age is Our Minds, Why this Matters and What We Can Do About It”です。最近の邦訳書に顕著なのですが、この自己啓発本のような邦題では、なによりも原著書の考え方やその語っている内容を、読者が本書を手にする時点で的確かつ正確には伝わりません。

著者のリチャード・ワトソンは英国人で、日本でその名はほとんど知られていません。講演や執筆、コンサルタント(IBM、コカコーラ、マクドナルド、イケア、トヨタなど)として活動しています。来たるべき将来のシナリオを創案し、現在の戦略の妥当性を検証するという手法をもちいることで、未来論者と目されています。

産業革命は、すぐに社会を変えたわけではなく、それは数十年あるいは百年ほどたって大きく変わったことを人間はあとで実感しました。もちろん、当時のテクノロジーと今日のそれとではスピードは違いますし、ビジネス、ライフスタイルも大きく進展していますが、根本的に人間そのものが変わったのではありません。

それでも、新しいテクノロジーに熱狂するあるいは歓迎して一喜一憂するのだけではなく、そうしたテクノロジーの驚くほどの進歩が人間の思考や精神にどう影響を与え、それにどのように対応していくべきなのか、いまこそ冷静になってその行く末を見る目(洞察力)を養うことが、テクノロジーが何でも人間の代替してくれる今日だからこそ、もっともわたしたち人間に必要とされているのだと感じます。

関連記事:プレスリリースがなくても可能な広報PRの方法とは

プラスα

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ここでは、私がこれまでに書いたマーケティングや経営戦略のビジネス書の書評とマーケティングエッセイをもとに、それぞれのテーマごとにいくつかピックアップをしています。読んでくださるみなさまに気づきやヒント、あるいは示唆などに資することがあれば大変に嬉しく思います。

私が留意した点があります。PRパーソンは、どうしてもこれまでマーケティング力が弱いという印象をもたれています。これまでの企業内におけるPRの機能とその役割を考慮すれば、仕方がないことでもあります。だからこそ、「戦略PR」という言葉が逆に注目されたといえます。

そうした点から、役立つだろうと思える記事をピックアップしました。もしも、なにがしかに資することがあれば幸甚に存じます。

<考え方と心構え>

(1)PRパーソンが担うべきディスラプション時代における「3つのミッション」とは
(2)マーケティング「思考」とマーケティング「マインド」について考える
(3)「プレゼンテーション私論」ーー成功させるために必要な「3つの心得」と「一番重要なスキル」とは

<マーケティング力を鍛える>

(1)【書評】『競争としてのマーケティング』
(2)「顧客志向」について、あらためて考えたこと
(3)【書評】『マーケティングの教科書〜ハーバード・ビジネス・レビュー 戦略マーケティング論文ベスト10〜』

<ソーシャルメディアについて>

(1)【書評】『ソーシャルメディア論〜つながりを再設計する』
(2)ソーシャルメディア再考。もう一度「Whyから始めよ!」
(3)【書評】『コンテンツマーケティング27の極意〜編集者のように考えよう』

<実務に役立つヒント>

(1)【書評】『メディア・コミュニケーション[入門]〜対応から活用へ』
(2)【書評】『トラクション〜スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』
(3)【書評】『サブスクリプションーー「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』

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梅下 武彦
コミュニケーションアーキテクト(Marketing Special Agent)兼ブロガー。マーケティングコミュニケーション領域のアドバイザーとして活動をする一方、主にスタートアップ支援を行いつつSocialmediactivisとして活動中。広告代理店の“傭兵マーケッター”として、さまざまなマーケティングコミュニケーション業務を手がける。21世紀、検索エンジン、電子書籍、3D仮想世界など、ベンチャーやスタートアップのマーケティング責任者を歴任。特に、BtoCビジネスの企画業務全般(事業開発、マーケティング、広告・宣伝、広報、プロモーション等)に携わる。この間、02年ブログ、004年のSNS、05年のWeb2.0、06年の3D仮想空間など、ネットビジネス大きな変化の中で、常にさまざまなベンチャー企業のマーケティングコミュニケーションに携わってきた。