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大型化するスマートフォンの悩みとその行方について考える

ここ数年、スマートフォンは年を追うごとに大型化してきました。大型画面製品が出はじめのころは見やすくなったと多くの人たちが歓迎したのですが、ここにきてこうした傾向にブレーキがかかりだしたようです。大型化しすぎたのです。しかも、iPhoneに関していえば、価格も下がるどころか上がっています。

みなさんの携帯電話は1台ですませていますか、それとも2台持ちーーこれはスマートフォン2台またはスマートフォンとガラケーでしょうか。

最近になって、小型の携帯電話について下記のようにさまざまなニュースや記事が目立つようになりました。今回は、この小型の携帯電話端末が続々と市場投入されている状況めぐり、私見を述べることでみなさんにとって考えるヒントくらいにでもなれば嬉しく思います。

 

「2台持ち」のさまざまな事情

スマートフォンと携帯電話の2台持ち

かつて、携帯電話の「2台持ち」する人を数多く見かけました。人が、煩わしいだけの2台もの携帯電話を所有する理由は、その人によりさまざまでしょう。

10年前(2007年)にスマートフォン(初代iPhone)が登場したころには、個人では早速それを購入し、会社支給のガラケーという組み合わせ。現在では、スマートフォン2台持ちが多いかもしれません。とくに頻繁に通話で利用することの多い職種や業種ーーたとえば外回りの多い営業職、建築や土木作業業界などの現場作業の従事者などーーは、スマートフォンとガラケーの2台持ちをいまでもあちらこちらで散見します。

また、電話料金を節約したいという人もいますし、バッテリーはガラケーの方が長持ちすることを理由としている人もいるでしょう。ネットで検索すると、そうした2台持ちについてのメリットやノウハウを紹介する記事を数多く目にします。

スマートフォン大画面化の3つ理由

スマートフォン(以下、スマホ)大画面化は、テクノロジーの恩恵ーー1つには高精細画面の表示、もう1つはCPU処理能力の向上ーーが、もちろん寄与しています。

しかし、消費者側の3つの“ジョブ(Job to be done)”が、より大きな理由だと考えています。

スマホですべて完結

PCを持つことなく、すべてをスマホですませる人たちの増加です。デジタルネイティブの若年層(10代)、自宅に仕事で仕事をする必要性がなくPCを持たなくてよい人などはとくにそうです。仕事や日常生活でPCを購入する理由のない人たちにとってはありがたく、機器の利便性向上の追い風もあって老若男女を問わずに大型スマホを所有しています。

なかでも、eコマース利用頻度の高い女性の心をとらえたことでしょう。スマホの小さな画面で商品写真を見るのと、自宅のPCの大画面のそれでは商品の見え方がずいぶんと違います。ショッピングを楽しむには、少しでも大きな画面で見たいという需要はかなりなものがあります。

ほかにも地図情報を閲覧するときなども便利ですし、大画面化によるメリットはコンテンツを楽しむためには多々あります。

ゲーム、動画視聴の増加

YouTubeだけではなく、映画・ドラマ・アニメからスポーツにいたるまで動画コンテンツの視聴者数の増加です。現在では、これらコンテンツをオンライン配信するネットフリックス、アマゾンプライム、DAZNなど国内外のサービス事業社が群雄割拠し、視聴者の獲得に懸命です。

こうしたコンテンツは、従来は自宅などの大画面で楽しんできたものです。多忙な現代人にとって、移動時間や空き時間に少しでも大きな画面で楽しみたいと望むのは当然でしょう。

電子書籍の普及

iPhoneの登場とそれに続くiPad、さらには電子書籍専用端末Kindleもあり、電子書籍は急速に普及してきました。日本の場合、電子書籍とはいいながらもほとんど(約80%)がマンガでしめられているという特殊な事情もありますが、一般の書籍も年々増加しています。しかも旧作や名作だけではなく、新刊で電子書籍も同時に発売されるようになりました。

マンガにせよ一般書籍にせよ、広い表示画面で少しでも見やすくなることを望むのは誰でも同様でしょう。

上記のような、大画面への3つの欲求(要因)が、iPhone、Androidを問わずに大画面化の進行をうながした理由でしょう。そうでなければ、文庫の1/3サイズほどで常にポケットに入れて持ち歩けるはずだったもの(pocketable)が、新書なみに大型化してバッグに入れて携帯しなければならなくなるもの(portable)として、一体だれが積極的に持ち歩きたがるでしょうか。

「スマートフォン=iPhone」登場とその衝撃度

旅行と観光のインフォグラフィック

10年前(2007年)、アップル社のiPhone発表がもたらした衝撃は、米テック業界にもありました。

どの本で読んだのかもう思い出せないのですが、モトローラ社のCEOはジョブズが携帯電話ビジネスに必ず参入してくるだろうと考えていたそうです。当時の同社は、2003年に、とにかくカッコイイ超薄型携帯電話の“Motorola RAZR(モトローラ レーザー)”の世界的な大ヒット(iPhoneに抜かれるまで3年連続販売台数1位)最中でした。iPhoneを見て、まさかマルチタッチによる携帯電話とは想像していなかったと。

また、グーグルも、アップル社があれほどの製品をリリースしてくるとは思わなかったと、やはり同じような様子だったようです。

それはスマホの代名詞で、欧米ビジネスマンに御用達の“BlackBerry”も同様です。

メディアなども、iMac以降は快進撃を続けているジョブズも、今度はその勢いは続かず失敗するだろうと予想していました。

初代iPhone発売後、日本メーカーの携帯電話機の開発にたずさわる技術者と工業デザイナーによる匿名の座談会記事を目にしました。工業デザイナーなどは、こうしたプロダクトデザインができるアップル社が羨ましいという一方、技術者からは特に革新的で新しい技術はなく、日本のメーカーであればもっと高機能な製品を開発できるという発言が印象的でした。

これは、大多数の日本人技術者の意見を代弁しているように感じました。なぜならば、こうした考え方こそ、日本の工業製品を世界的なブランドにまでしてきた事実があるからです。これは善し悪しとは別に、技術者が持つ自負ともいえるでしょう。

しかし、そうした視点しか持ち得なかったことが、現在では新興国(台湾・中国・韓国など)にすら日本が後塵を拝する要因ともなっているのです。かつての強みは、状況が変わればそのままアキレス腱にも転化するということなのですが、その発言の主は10年後の現在、なにを感じ思っているのでしょうか。

iPhoneと“ジョブ(Job to be done)”の関係

グローバルコミュニケーション

米国テック業界を出し抜き、メディアもその成功を疑問視していたアップル社の携帯電話への参入でしたが、iPhoneは発売と同時に消費者から熱狂的に歓迎され全世界で爆発的なヒットとなりました。ブラックベリー、ノキアやパームなど、それまでのスマホを一瞬にしてすべて葬り去ったのです。

ほとんどの携帯そしてスマホユーザーたちは、「こういう携帯こそ待ち望んでいた」と喝采を送ったことでしょう。

そもそも、iPhoneは携帯電話やその延長から出てきた製品ではなく、機能は高くなくともポケットに入れて持ち歩ける(pocketable)PCという視点による製品です。ジョブズは、クリステンセン教授の著書を読んでいたという話しを聞いたことがありますし、おそらく誰よりも同教授の「ジョブ理論」を理解していたことでしょう。

それは2007年、Macworldでジョブズの初代iPhoneのプレゼンテーションに象徴的に現れています。

冒頭の導入部におけるこれまでを振り返るようなスピーチこそ、ジョブズの生涯とアップル社の歴史、それらが成し遂げてきたことが凝縮された言葉で、私が一番好きなプレゼンです。

1984年、初代Macが誕生したときの広告コピーは“The Computer For The Rest Of Us”でした。日本に訳せば、「(ギークにではなく)普通の人たちのためのコンピュータ」という意味です。

上記をiPhoneに翻案してみれば、“The Smartphone For The Rest Of Us”という発想、つまり「一部の人にではなく、普通の人たちのためのスマートフォン」ということなのです。

ですから、デフォルトでは最小限アプリだけにとどめ、ほかはユーザーが必要に応じてソフトをインストール(アプリの追加)するというPCと同じ製品なのです。

ただし、PCのようになにかを作成あるいは制作するのではなく、おもに「コンテンツ消費のためのデバイス」で利用できればそれで十分なので、機器自体にそれほどの高性能や高機能が最初から求められていませんでした。また、機器自体が、ハードウエアの性能に依存するより、ソフトウェアで機能や性能を追加し制御できる時代になっていたこともあります。

そうした時代状況をふまえ、ジョブズは携帯電話を“再発明(reinvent)”すると語りました。しかし、電話として再発明はしたのですが、真の意味での携帯情報端末——かつてのPDA(Personal Digital Assistant)——の再発明になると、おそらくジョブズも想定していなかったのではないかと個人的は思います。

もちろん、2010年にiPadをリリースしたので、その称号(PDA)はそちらの譲ったのだということなのかもしれませんが。

スマホと来たるべき「携帯電話」を考える

スマートフォンとスマートウォッチ

ガラケーは1999年、世界初インターネット接続のiモードもあるのですが、それでも電話が主役でした。もちろん、若年層と社会人とくにビジネスパーソンとでは利用形態(目的)がかなり違っていましたが、それでも人との電話(通話)がメインでした。

今日のスマホは、携帯電話といいながら電話はすでに主役ではありません。実際に通話での利用時間や機会は少なく、コミュニケーションもSMSやSNSなどが主体に取って代わり、スマホはありとあらゆる「コンテンツ消費デバイス」(そうした自覚があるか否かは別にして)であり、まさに十人十色の使い方です。SMS FourSなどのSMS配信サービスもビジネスに使われています。

私自身、スマホはブラウジングーーそのほとんどは検索エンジン、ニュース、ブログの閲覧ーーでしか使用しません。あとは地図情報などをチェックする程度です。電話はめったにかかってもきませんし、電話で連絡をとる緊急性がある場合を除けば、私からかけることもほぼありません。つまり、コンテンツ消費デバイスとしか思っていないのです。

私は、大画面のメリットは十分に承知しているのですが、それが嫌なので小型のiPhone SEを利用しています。SE2がリリースされるとの噂もあったのですが、このサイズ自体のスマホをアップル社が今後はリリースしないとの噂もありとても残念に感じています。

さて、“電話機としての携帯端末”は、今後どのようになるでしょうか。

すでにApple WatchとAirPodsがあれば、携帯電話としては通話が可能なのでわざわざ大きなスマホを持ち歩かずにすみます。

それでも、現在の腕時計型はさらに薄くおしゃれなアクセサリーのようなブレスレット型あるいはネックレスやペンダントのような多様な製品が登場し、AirPodsは進化して耳栓ほどに小さくなったイヤピースとなるでしょう。骨伝導でボスコマンドが可能で通話だけではなくSiriなどで検索も利用できるなど、腕時計とイヤピースがあれば電話機としての機能は十分に果たせます。

それに、とくに女性であればなんといっても、あの弁当箱の蓋のように大きなスマホで話しをしている姿は、できれば遠慮したいのがホンネでしょう。私は男性ですが、他人の大画面スマホで通話しているのを見て、それはやはり遠慮したいと実感しました。

つい先日発表されたNTTドコモの「ワンナンバーフォン」はスマホ1台の電話番号で、現時点では違うようですが、いずれ仕事ではスマホ子機、個人ではスマホ本機にと発着信を自動で振り分ける仕組みになるでしょう。それでも、どうしても2台持ちしたい人は、NTTドコモの新型ガラケー「カードケータイ」のような製品もありますし。

とにかく、大画面スマホを持ち歩かない(必要としない)製品の開発はこれからも続きますし、それが“電話機としての携帯端末”の主流となるでしょう。ところで、もしアップル社がいまのような大画面だけを製品化し続ければ、小型のスマホを欲しがっている人たちは、Androidに鞍替えする人が出てくる可能性は否定できないでしょう。

しかし、うがった見方をすれば、iPhoneの大画面化はペアリングして通話ができる製品(Apple Watch、AirPods)をより多く売るためのマーケティング戦略なのではないかと、私などはすぐに勘ぐってしまいます。

20世紀末、PCとインターネットという2つのテクノロジーがもたらした経済・社会・人々の生活の大激変を否定する人は、おそらくはいないでしょう。1984年にPC(Mac)、1995年にインターネット、2007年にスマートフォン(iPhone)と、おおよそ10年ごとにイノベーションが起きています。

これから2025〜30年までのあいだにどれほどのイノベーション(製品)が現れるのか、それを考えただけで好奇心が大いに刺激されワクワクしてきます。

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梅下 武彦
コミュニケーションアーキテクト(Marketing Special Agent)兼ブロガー。マーケティングコミュニケーション領域のアドバイザーとして活動をする一方、主にスタートアップ支援を行いつつSocialmediactivisとして活動中。広告代理店の“傭兵マーケッター”として、さまざまなマーケティングコミュニケーション業務を手がける。21世紀、検索エンジン、電子書籍、3D仮想世界など、ベンチャーやスタートアップのマーケティング責任者を歴任。特に、BtoCビジネスの企画業務全般(事業開発、マーケティング、広告・宣伝、広報、プロモーション等)に携わる。この間、02年ブログ、004年のSNS、05年のWeb2.0、06年の3D仮想空間など、ネットビジネス大きな変化の中で、常にさまざまなベンチャー企業のマーケティングコミュニケーションに携わってきた。