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【書評】嫌われモノの〈広告〉は再生するか

書評:嫌われ者の広告は再生するか_アイキャッチ

スマートフォンでコンテンツを閲覧しているとき、さまざまに表示される広告を鬱陶しく感じている人は多いでしょう。

広告は見られていない、効かないという言葉は、実は1980年代半ばから繰り返し言われ続けています。それが今日のインターネット広告(以下、ネット広告)になってからは、無視から目障りな邪魔者として扱われているほどになっています。広告は終わっている、という人たちもいるほどです。しかし広告は、本当にすでにその役割を終えているのか、あるいは本当に嫌われものになってしまったのか。著者は、そう問いかけています。

嫌われモノの〈広告〉は再生するか 健全化するネット広告、「量」から「質」への大転換

本書は、マーケティングコミュニケーション、とくにネット広告を取り巻く状況について、あらためてその意義、役割と機能、ネット広告が疎まれている理由、その問題点について考え、どう対処していくべきなのか。さまざまな関係者たちへの取材を通じ、解決への視点や道筋をつけようとしています。そういう意味で、本書は著者による広告についての“希望の書”となっています。

広告は「嫌われてはいない」?

Video adverising 画像

著者は、総合広告代理店でコピーライターとして10年勤務の後、ウェブ広告代理店に転職。フリーランスとなってからは、自身のウェブメディアを運営しながら、ネイティブ広告、スポンサード広告なども手がけ、メディアコンサルタントとして活動しています。

メディアの現場に長年携わってきたキャリアから、広告でもっとも重要なことは「心を動かすこと」で、生活に溶け込んだ中で表現されているかぎり、広告として効果を発揮し、邪険にされることはないと述べています。

ここで、日本インタラクティブ協会(JIAA)が2023年10月に発表した最新調査データ「2022年インターネット広告に関するユーザー意識調査(定量)」で確認しましょう。ネット広告について聞くと、「サービスの有料・無料に関係なく、広告はあっても良い」という人の割合は92.5%と高く、特に「サービスの有料・無料にかかわらず、広告はあっても良い」という人が23.9%と、2019年の同調査から10ポイント以上も上昇しています。また、ネット広告をクリックしてサイトを訪問したことがある人のうち、70.4%が有益に感じた経験を持つとも回答しています。

しかしその一方で、「インターネット広告の信頼度」22.3%と他メディアと比較すると低く、また「しつこい/不快」「邪魔な/煩わしい/うっとうしい」といったイメージを全体の35%前後が持っていて、「いかがわしい/怪しい」「誤解を招く/虚偽感のある」イメージも20%前後となっています。
一方、嫌悪感や不快感が最も高かった広告フォーマット(表示方法)については、「閉じるボタンがわかりにくい広告」「意図しないクリックを誘う広告」「画面の大きな部分を占める広告」など、ユーザーのコンテンツ利用を妨げるほどの広告の表示が、不快・不信に感じたものとして上位に挙げられています。

つまり、インターネットユーザーの92%が広告を受容または許容しつつも、不快なネット広告はその表示方法にあることがわかります。また“信頼度”については、課題であり依然として低い状況が続いています。

こうした調査結果からも、広告自体は必ずしも嫌われているあるいは不要と思われているわけではなく、ネット広告がブロックされるほど不快で嫌がられているのは、広告自体よりその「表現手法」とそれを配信する「仕組み」に問題があり、それが広告嫌いを増やす大きな原因になっていると著者は述べています。

テレビやラジオと同様、さまざまなメディアやオンラインサービスは、広告があることにより無料で利用できるのです。どのような新しいテクノロジーやそれによるサービスのビジネスモデルも、そのほとんどは広告収益に依存しています。広告は、メディアのビジネスにとって不可欠であることもまた事実です。

インターネット広告の無秩序化によるメディア荒廃

メディア荒廃のイメージ画像

スマートフォンでコンテンツを見ている最中、さまざまに表示される広告を消そうとして「×」をタップしたつもりが、広告ページに飛ばされてコンテンツを見ている行為を邪魔され、あるいはコンテンツをスクロールしている途中で誤って指が広告に触れてしまう。

なかにはスクロールするあいだ中ずっとつきまとう広告、頻繁に表示されるポップアップ広告などにウンザリした経験は誰にでもあるでしょう。テレビや雑誌、新聞であれば飛ばしたり無視したりする広告も、ネット上では見たくなくとも、強制的に広告を見せられて目障りだと感じます。

2000年代後半、スマートフォンの登場と数多くのソーシャルメディアの誕生により、アクセスさせることが目的の釣りタイトルや記事など、それが今日の無秩序な広告空間を招いたのだと著者は述べています。まとめサイト、アグリゲーションサービス、キュレーションメディア、さらにはバイラルメディアなど、「雨後の筍の如く」出現し、インプレッション獲得、PV稼ぎに奔走し、あるいはアフィリエイト目的のために記事内容よりもバズらせることを優先していくことで、メディア自体を荒廃させてしまう原因となりました。

こうしたメディアは一方では、手軽に開設して情報発信できるメディアで参入障壁が低いことで粗製濫造され、そこにアドネットワークが入り乱れて見境のない広告配信が加わったことで、“メディアの無秩序の出現と広告の無政府状態が日常になった”と著者は述べ、そうした状況が広告嫌いを増やしていると。

ソーシャルメディアは、いたずらや悪意に基づくフェイク情報を流すことも可能で、しかもエコーチェンバーあるいはフィルターバブルがもたらすことで多様性が削がれ、社会の分断の温床となってしまう懸念があります。ましてや、現今のソーシャルメディアはその国だけではなく、世界中の他国のリーダー選びすら左右するほどその良し悪しにかかわらず、社会的にも重要なプラットフォームとなっています。

アドフラウド、ブランドセーフティという問題

アドフラウど イメージ画像

従来のメディア広告では、広告主→広告会社→メディア(四大媒体)というシンプルなもので媒体名やその特性もわかり、事前に広告枠を購入して掲載する仕組みです。一方のネット広告は、広告主→広告会社→DSPアドエクスチェンジ(アドネットワーク)→SSP→メディアという複雑な流れです。ネット広告は、システムが自動的に配信するいわゆる運用広告が全体の80%以上を占めています。しかもこれには多数の事業者が複雑に関わり、爆発的に増えるネットメディアを事前にチェックすることはほとんど不可能です。

したがって、アダルト関連の公序良俗違反サイト、ヘイトサイト、極右サイトあるいはテロ支援サイトなど、企業が望まないサイトにも広告表示されてしまう問題があります。また1つのページに乱雑に広告を氾濫させるクラッター広告、同じページに複数回広告表示させる同時掲載広告など、インプレッションやクリック数を稼ぐために、テクノロジーを駆使して広告をとにかく表示させるだけで、偽りの成果による広告費請求など、いわゆるアドフラウドという言葉で問題視されている詐欺的行為による水増し請求などの不正が問題化しています。

そうしたなりふり構わない広告配信は、その企業への好感度や信頼を損ねるブランドセーフティという重大な問題に関わり、場合によっては不買運動にまで発展してしまうこともあります。ネット広告を運用している仕組み自体が、ブランドを毀損してしまうのです。

そうした問題に対し、世界最大級の広告主企業である米国P&Gやユニリーバなどは、とくにソーシャルメディアのネット広告取引で透明性が改善されないのであれば、それらネット広告費を削減することも辞さないと表明し、そうしたメディアやプラットフォーマーに対し、透明性の向上や確保をする仕組みを構築するよう強く要請していたことが大きな話題となった。

つい最近の日本でも、多くの著名人の名前や顔写真を勝手に使用したなりすましによる投資広告の被害がありました。こうしたSNSでのフェイク広告やフェイク投稿による被害は、詐欺行為としてそれら著名人たちが訴訟を起こしているニュースが、多くのメディアで大きく取り上げられました。消費者庁も関係省庁と連携し、この詐欺広告に取り組んでいく考えを示しました。

アドベリフィケーションとアドバタイザーズ宣言

ベリフィケーション イメージ画像

こうしたネット広告が抱えるさまざまな問題があるにもかかわらず、広告主である企業、広告代理店さらにはメディアなどによって、問題認識については大きな温度差があることを指摘しています。たとえば、アドベリフィケーション(Ad Verification)についても、広告主はおろか広告代理店の人たちでさえきちんと理解していない人の多さに、著者は驚きを隠せなかったと述べています。

広告業界としての明確な規制や消費者を守る法律が追いついていない無法状態に近いことから、ネット広告が信頼性を獲得できない状況が続くことは、広告の意義と価値を損ねてしまい、さらには広告主だけではなくメディアの存在、そして消費者にも不利益をもたらすとことになってしまう危機感があります。広告は本来、企業にとって消費者にメッセージを伝えるための重要な手段、メディアにとってはビジネスに不可欠な収益源です。

広告が疎まれ、さらにはブラウザのアドブロック機能により拒絶されてしまう現状は、健全な広告ビジネスをしていくうえで、改善する必要性に迫られています。

こうしたネット広告の運用を適正に行うために、アドベリフィケーション推進協議会が発足し、積極的な導入と活用していくことを推進しています。そのためのツール導入や運用にはそれなりに費用が必要です。それでもブランドの信頼や安全を確保するために、大きなコスト負担をしてでも、運用型ネット広告においてはブランドを守ることが求められています。

こうしたさまざまな問題を抱えているネット広告を、根本から改善して健全化を推進するためには、発注元である広告主の業界団体である日本アドバタイザーズ協会(JAA)のイニシアチブにより、2019年11月「アドバタイザーズ宣言」(ガイドライン)の発表とカンファレンスが開催されました。

その「8大原則」には、広告主として健全な広告活動を推進していくという強い決意表明でした。これを受けた翌2020年12月、日本アドバタイザーズ協会(JAA)、広告代理店の業界団体である日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ協会(JIAA)の3団体は、デジタル広告の安全と安心の出稿や運営のため、監査団体の日本デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)を立ち上げました。

コミュニケーションエコシステムで考える

コミュニケーションエコシステム イメージ画像

著者は、こうしたネット広告の改善に対する一連の動向について、以下のように述べています。

宣言一つですべてが一気に解決するわけではないと思うが、それをきっかけに問題をより広く共有し、啓発活動を地道に進めていくことで、解決に一歩ずつ向かっていくと信じている。

ネット広告には、バナー広告やリスティング広告の他にも、アドバトリアル(記事広告)、アドバテイメント、ネイティブ広告、スポンサード広告、ブランデッドエンタテイメント、ブランドチャンネルなど、従来の4大メディアでは不可能だった多種多様なコミュニケーション手法を考案されています。その他にも、電車内や駅構内の柱や壁面、商業施設内を活用したデジタルサイネージによるOOH広告などもあります。
これからも、テクノロジー進化がもたらす革新的なデバイスやツールが誕生すれば、新しいタッチポイント獲得により、広告コミュニケーションの拡張をもたらすでしょう。

本書では、ここまで述べてきたネット広告以外にも、テレビメディアの視聴率至上主義からの転換やその測定基準が変わりつつあることなど、ネット広告に限らず、メディアのそれまでのあり方や指標が転換点を迎えていることについても言及しています。

著者は、これからの広告業界に必要な人材は、“総合広告代理店の視点を持ち、ウェブ代理店がやっていることも理解している人材だろう”と述べています。これは、PR業界においても同様なことがいえるのではないでしょうか。それはこれまでの四大媒体かそれともネット媒体かにかかわらず、PRの本質、その意義と価値を理解しながらコミュニケーション戦略全体を俯瞰できる人材が求められています。

PRそのものは、いまのところ嫌われて広告のように意義と価値を問われているほど、業界としての大きな問題とはなっていません。それでも課題はあり、「対岸の火事」ではありません。

一部のPR企業によるブログを使ったPR、レビューサイトへの書き込み、ECサイトや口コミサイトなどで、好意的な評価や評判を高める「やらせ行為」(ステルスマーケティング)が、さまざまなメディアで問題として大きく報道されました。このPR手法は、クライアントの信頼を損ない、PRの信用を貶め消費者にとってもメリットはありません。こうした状況から、消費者庁は2023年10月に「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」により、ステマが法的な規制対象になりました。

PRは、社会との良好な関係づくりによる信頼の醸成と獲得が目的です。そうしたステマ行為が発覚すれば、企業や製品・サービスへの信頼を損ねることにしかならず、PR本来の役割とは逆の結果を招くことにしかなりません。企業のコンプライアンスが強く求められている今日、PRが自らの首を絞めるような行為は、業界の健全な発展を阻害することはあっても貢献することはないことは、だれでもわかることです。

これからのマーケティングコミュニケーションは、従来のマスメディアかインターネットか、広告かPRあるいはセールスプロモーションかなどにかかわらず、テクノロジーの進化において新しいマーケティングコミュニケーションを促します。しかしその一方で、その過程では徐々に問題点が浮き彫りになってきますが、変化のスピードに業界としてのルールづくりや法的規制がそれに追いついていかない状況があります。

私は「コミュニケーションエコシステム」という言葉をよく使用します。この言葉は、当時、ブログコーナーを持っていたITメディアマーケティングの中で、「「マーコム」という言葉が死語となる日ーーコミュニケーションエコシステムへの大転換」(2013年)という記事の中で初めて使った表現です。なぜならば、これからのコミュニケーション戦略ではサプライサイドの都合ではなく、メディアやコンテンツと共創するコミュニケーション視点が求められてくると考えていたからです。

本書は、マーケティングコミュニケーション戦略とそれに関連する業務に携わっているすべての人たちに、ここで提示されている課題について考えてみるべきではないかと、読後にあらためて感じています。

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梅下 武彦
コミュニケーションアーキテクト(Marketing Special Agent)兼ブロガー。マーケティングコミュニケーション領域のアドバイザーとして活動をする一方、主にスタートアップ支援を行いつつSocialmediactivisとして活動中。広告代理店の“傭兵マーケッター”として、さまざまなマーケティングコミュニケーション業務を手がける。21世紀、検索エンジン、電子書籍、3D仮想世界など、ベンチャーやスタートアップのマーケティング責任者を歴任。特に、BtoCビジネスの企画業務全般(事業開発、マーケティング、広告・宣伝、広報、プロモーション等)に携わる。この間、02年ブログ、004年のSNS、05年のWeb2.0、06年の3D仮想空間など、ネットビジネス大きな変化の中で、常にさまざまなベンチャー企業のマーケティングコミュニケーションに携わってきた。