前回の記事で、広報ビジネスに携わる人たちが初めて読む著書として、『社会との良好な関係を築く広報の基本』をご紹介しました。
本書も、同じ出版社による「企業広報シリーズ」(全6巻)の第3巻として刊行されています。前回の記事と同様、本記事でも広報という語彙で統一していますが、PRという言葉に置き換えても同じです。
広報部門やその担当者は、広範で多岐にわたる広報活動をカバーしなければなりません。その中心ともいうべき重要な業務が、メディア・リレーションズです。
主要四大メディアだけではなく、インターネットが日常の社会においては、多種多様なソーシャルメディアへの対応とその活用も必要不可欠になっています。
著者の五十嵐寛は大学卒業後、株式会社プラップ・ジャパンにて企業や商品・サービス、イベントから危機管理まで幅広い広報業務でキャリアを積み、株式会社ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンでは、クライシス・コミュニケーションやメディアトレーニングなど、さまざまな企業広報のコンサルティング業務に従事。
2006年、株式会社ハーバーコミュニケーションズを設立し、同社代表取締役に就任しましました。そうしたパブリック・リレーションズ業務に一貫して従事し、多彩で豊富なキャリアをもっている人です。
本書は、そうしたに知見に基づいて著した内容で、その目的は、メディア・リレーションズの知識を網羅的に紹介し、各メディア特性、メディアへの対応の仕方、関係者たちとのコミュニケーションの取り方、主業務の内容まで具体的かつ詳細に述べています。
広報活動の基礎知識
第1章から第4章まではイントロダクションで、広報業務を行うときに必要な基礎知識について述べています。
広報業務は、広告と比べて幅広い業務内容を担っていますが、メディア・リレーションズはその中核といっても過言ではありません。新聞、雑誌、ラジオ、テレビの四大メディアはもちろん、近年ではオンラインメディア、それも各種SNSやブログなど続々と登場するソーシャルメディアとそのインフルエンサーたちとの間に良好な関係を築いて保つことが基本です。
多くのメディアと上手にコミュニケーションを推進しながら、それらを活用するあらゆる業務がメディア・リレーションズです。その巧拙こそ、あらゆる企業活動に影響を与えます。
メディア・リレーションズにおいて、今日でも新聞は依然として最優先メディアです。最近では新聞を読まない人が増え、購読者数は発行部数の年々減少しつつあります。しかし、Yahoo!ニュース、Googleニュース、SmartNewsなどのアグリゲーションサービスの利用者は多く、むしろニュース情報に接する機会は増えています。
新聞は全国紙、ブロック紙、地方紙のほか、スポーツや各種の産業ごとの新聞(農業、工業、流通業界など)、さらには特定業種だけに特化した業種専門紙(日刊「警察新聞」など)などは無数にあります。本書では、新聞記者の使命と役割、新聞誌面作りの流れ、社内の組織体制、記者クラブなど、一通り新聞メディアについて説明しています。
地方紙やブロック紙にとって、頼りにしているのが通信社です。世界的な通信社は、ロイター、AFP、AP、UPIなどが有名で、国内では共同通信、時事通信などが知られています。通信社が新聞社と異なるのは、自社メディア(新聞)を直接発行せず、取材とニュースを提供・配信しています。
しかし、インターネットがインフラの今日では、通信社でもウェブメディアを“発行”し、新聞社と同じく毎日ニュースを配信しています。
雑誌はターゲットメディアです。対象読者(セグメント)が明確なので、狙った層に情報を届けるには効果的で最適なメディアです。企業広報の担当者には、ビジネス誌は外せない雑誌です。
経営トップ交代時などのインタビュー取材、定期的に業界の特集記事を組むので、そうしたときに自社やその製品やサービスが紙面に露出する機会を得られますし、場合によってはその企業トップや事業部担当責任者へのインタビュー取材など、メディアに掲載される機会を得ることも考えられます。
メディアで、ここのところあらためて活用され、注目されているのがラジオ(音声メディア)です。ラジオは、スマートフォンさえあれば、いつでもどこでも聴くことができる専用アプリradiko利用者の増加、コロナ禍で在宅勤務やオンライン学生など、在宅者や時間が増えたことが影響し、聴取者も若年層リスナーが増加しています。
ビデオリサーチの2020年6月のプレスリリースで、「新しい生活環境下(=コロナ禍)では、10代女性のラジオリスナーが増加している」という調査結果を公表しています。とくにZ世代での人気が高まっているという分析もあります。
さらに今年になり、radikoアプリ内にポッドキャスト機能も追加されたことで、ちょっとした空き時間や電車の移動時などでの利用拡大を目指し、リスナー獲得を強化しています。最近のラジオでは、話題の企業、製品やサービスの紹介、そうした企業の代表者や広報担当者をスタジオに招き、インタビューや対談するビジネス情報番組がAM・FMで数多くあります。
そのほかにも、朝の情報番組内でもビジネス情報コーナー(5〜10分ほど)があり、そうした番組内での露出なども考えられます。
インターネットは、四大媒体だけではなくソーシャルメディアまでも含まれ、多種多様なメディアが溢れています。今日、書くメディアの記事掲載はそうしたウェブメディアが優先となっています。また、ウェブメディアで話題や注目されている情報を、四大メディアが後追いで報道することもあります。ただし、ウェブメディアは風聞情報やフェイクニュースが増加していることから玉石混淆であり、四大媒体に比べて情報の信頼性や確度は高くありません。
プレス対応の基本的な心構え
企業の広報部門が、もっとも多く接するのはさまざまなプレス関係者たちです。プレスとは、フリーランスを含めて記事を書く人たちとさまざまなメディア機関のことです。広報担当者の人たちは、そうしたメディア関連の記者の使命や役割について充分に認識しておかなくてはなりません。
例えば、製品やサービスについてのインタビュー取材を受けたとしても、広告ではないのでメディア掲載が保証されているわけではないことを、常に心に留めておくことです。記者たちにとっての判断基準は、メディアで報道する価値ある情報か否かです。
したがって、伝える側の担当者がニュース価値のあることを、プレスに対して上手く伝えられる技術と努力が求められます。また、メディアの記者たちと接するときは、曖昧さや誤魔化し、隠し事、あるいは嘘をついたりすべきでないことが、なによりも重要となります。
記者たちから、経営者層への取材申し込み、他の事業部や部署への問合せなどがある場合でも、必ず広報部門へ伝えることも大切です。
パブリシティとニュースリリース
第5章から第8章は、広報実務の基本的について述べています。
パブリシティとは、プレス関係者などにプレスリリース、取材などのきっかけとなる情報提供を行い、メディアで報道・掲載(露出)することです。パブリシティには、ペイドパブリシティ(アドバトリアル、記事広告ともいう)という手法もあります。パブリシティについては、別記事「パブリシティとは:マーケティングのためのPR戦略」で詳しく解説しています。
ニュースリリースは、プレスリリースともいいます。その企業に関するヒト・モノ・コトなどのあらゆる情報がリリース素材となります。そうした情報をプレス関係者に配布(配信)し、その情報を基に問合せ、取材の申し込みなど、メディア露出する機会を獲得することにつながります。
したがって、広報担当者にとってリリースを書くスキルはもっとも重要です。リリースを書く場合はリード部分が重要で、そこを読んだ人の関心を喚起できるようでなければなりません。また、専門用語や業界用語などの特有の言い回しを避けることも大切です。
取材申し込みを受ける場合、事前に申し込み者に対し、取材の趣旨と目的、想定している質問項目を事前に提出をいただき、広報担当者はその質問内容を基に、取材時のQ&A(想定問答集)を作成します。取材時は、広報担当者は必ず同席します。
また、取材された場合でも、必ずメディア掲載されるとは限りませんので、それも心得ておきましょう。
記者会見の概要とフロー
本書で、もっともページが割かれているのが記者会見です。これはメディア・リレーションズにおける花形ステージで、広報担当者にとっての一大イベントです。日時の設定、会場選びなどの事前準備から当日の役割、司会進行、会見後のフォローまで詳しく述べています。
今日の記者会見では、会場での実際の会見とオンラインでも同時配信するハイブリッド型記者会見が増えています。場合によっては、オンライン記者会見だけで開催することもあります。オンラインで会見に参加できることは、多忙な記者たちが会場に足を運ぶ必要がなく、デスクや外出先(出張や海外)でも会見に参加可能です。
また離れている地方メディアの記者たちにも、会場とほぼ同じ内容をそのまま伝えることができます。また逆に、地方企業でも、首都圏の記者たちにはオンラインであれば参加してもらえます。映像をアーカイブし、参加できなかった人たちに、後で会見映像を提供もできます。いくつか記者会見に関わったのですが、すべてこのハイブリッド型でした。なかには大手企業で、オンラインだけによる記者会見もあるほど、その活用は進んでいます。
本書では、下記の6つの事案では、記者会見を検討することを促しています。
- 経営トップの人事、M&Aなど経営上の重要な決定が行われたとき。
- 企業に対し、とくに注意喚起が必要なとき。
- 企業として重視している新製品・サービスで、とくに会見でそれらを直接伝えたいとき。
- 詳しい説明、デモンストレーションが有効または必要とされるとき。
- 共同開発、事業提携など、他社と協業するとき(この場合、共同会見とすることも)。
- 外資系企業で、会長やCEOが来日するとき(ただし、発表すべきニュースがある場合)。
会見日時は、一般的には3週間前から1カ月前には決定しておきます。平日の火曜日から金曜日の昼前後、午前10〜11時、午後は1〜2時の開始に設定します。会場は、ホテル、貸し会議室など交通アクセスの利便性、会場の空き状況と広さを確認し、下見は必ず行い、PCで直接メモをする人が多いので、机があることが望ましいです。
記者会見の準備では、会見進行台本、想定Q&A集、進行表と択割分担表、会見アンケートなどのほか、会見当日に記者に配布するプレスキットを用意します。
プレスキットとは、メディア関係者向けに提供(配布)する資料一式で、企業概要、代表や役員の略歴、事業概要、製品・サービスの紹介、プレスリリース、画像(企業ロゴや製品等の写真など)、などをセットにしたものです。また、司会進行は企業の担当者、あるいは外部の人(PR企業の人など)に依頼するかなども決めておきます。
記者会見の案内状は、10日から2週間前に配信します。一斉配信だけではなく、手元にメディアリストがある場合、それを活用してピンポイントで取材する担当者または部署にも送信します。
会見当日、受付は30分に開始するのが一般的です。ただし、テレビ取材などが入る場合、カメラの設置位置や撮影場所を確保のため、受付開始前に入ることもあります。会見はおおよそ20〜30分、質疑応答で10〜15分、その後の懇談会などを含め、約1時間ほどで開催するのが一般的です。
その他の知っておくべき広報業務
メディアトレーニングは、今日では不可欠となっています。企業経営者や役員など、メディアの取材を受ける機会のある人たち向けに、話し方や受け答えなどをトレーニングします。通常は、レクチャー(座学)と模擬演習をセットで実施します。トレーニング中はビデオ録画し、終了後にトレーナーからアドバイスを受けるのが一般的なトレーニング内容です。
メディアキャラバンは、広報担当者が自社の製品やサービスについて知ってもらうため、プレスキットを持参してメディアを直接訪問することです。プレスキットは、会見時だけではなく、取材があるときやメディアキャラバンでも必要となります。
プレスツアーは、地方や海外の工場や商業施設などに、ツアーを組んでプレス関係者たちを招待することです。実際に製造現場や施設を体験してもらいながら、企業や製品、資質やサービスなどへの理解を深めてもらい、メディア露出を図ります。
メディアオーディットは、メディア関係者にヒアリング調査を行うことです。メディア側から見た企業認知度、イメージ、広報施策や活動への評価など、直接またはアンケートを実施し、今後の広報業務に活かす目的で実施します。
本書は、メディア・リレーションズについて知り、その全体像を把握するには最適な著書です。企業の広報業務部門に配属された新入社員はもとより、PRエージェンシーの新人研修テキストとして、メディア・リレーションズに関してとても参考になる本というのが読後の感想です。
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