前回の記事では、日本人が北米のカンファレンスで英語のプレゼンをする上で、スピーチ原稿の作り方や英語ネイティブスピーカーに受け入れられるような文章の調整方法、そして練習方法について詳しく解説しました。
最終回となる今回は、本番に向けて気をつけていくことやプレゼン本番の日のレポートをしていきます。
前回もお伝えしましたが、私、神村優介(シェイプウィンの代表)は、アメリカIT・通信業界の中でも歴史ある代表的なカンファレンスである『PTC』において世界各国のリーダーの前でプレゼンをする機会を持つことができました。
また、同時期にカナダの食品業界団体である『BC Food & Beverage』でもオンラインですがセミナー講師として登壇しました。どちらもだいたい20−30人のオーディエンスを前にプレゼンしました。テーマはどちらも日本のマーケティングに関することです。
カナダに住んでるので英語もペラペラなんでしょ? と思われるかも知れませんが、私の英語のスコアは昨年の秋に受けたカナダの英語能力テストCELPIPで7、留学などでよく使われるIELTSに換算すると6.0のレベルです。
このスコアは「Adequate proficiency in workplace and community contexts」つまり、生活と仕事で最低限必要なレベルの英語力ということで、英語のレベルというと中級に値します。そのため、『準備』に3ヵ月以上の期間を費やしました。
今回のレポートは、3回の連載でお伝えします。今回は第3回ということで『直前から本番までの体験談』をお届けします。
- 北米向けのパワポづくり編
- 欧米人に伝わるスピーチ準備編
- 直前から本番までの体験談
いよいよプレゼン本番!
プレゼンまであと1週間になりました。第1回、第2回でお伝えしているようにプレゼンの成功の成功の8割は『準備』です。これまでの記事では、効果的なスライドの作成とスピーチ原稿の準備に焦点を当ててきました。
しかし、その成果が決まるのは本番です。今回は、プレゼンの本番における具体的な対応策について解説します。プレゼンの本番は、これまでに行ってきた準備を試される場であり、聴衆に強い印象を残す絶好の機会です。
プレゼン1週間前からやること
まだ北米のカンファレンスでピッチやプレゼンをやったことないとイメージができないので、不安が募るものです。私もオンラインでの参加はありましたが、オンラインは原稿を読みながらできますし、質問が来て聞き取れない場合は同時翻訳ソフトなどを使えばなんとかなります。
リアル開催はそうはいきません。なので、今回意識したのは「成功をイメージする」ことです。
つまりイメトレです。日本でも『TED』の動画をいくつも見てスピーカーがどのようなしゃべり方をしているのか、身振り手振りをしているのか、間の置き方はどうかなどを研究しました。特に私が気に入っているTEDの動画はこちらです。中身がなくてもTEDっぽく賢そうに感じるしゃべり方を紹介したTEDトークです。
日本だとプレゼンの主役がスライドになりがちです。スライドを充実させてそれを説明する人がスピーカーというイメージでしょう。北米では逆です。
スライドはあくまで脇役。スピーカーであるあなたが主役です。なので、第1回で説明したようにスライドはシンプルになります。大事なのはスピーカーであるあなたに目を向けてもらう事です。スライドしか見てもらえてなかったらある種失敗です。
リハーサルのリハーサル
1週間前になるとある程度話す内容は頭の中に入っているので、原稿を見なくてもスピーチできるはずです。しかし、ステージに立って人前で話すのと自分だけで練習するのは違います。また、相手が同じ日本人だったとしたらちょっと緊張感が足りません。
ネイティブスピーカーを相手にプレゼンの練習に付き合ってもらいましょう。周りにいれば良いですが、いない場合はマンツーマンの英会話教室でもいいと思います。私は、Preplyという外国語ネイティブのチューター(家庭教師)サービスをオススメします。
慣れている先生ではなくできるだけ初めての人を選んで初めての人に聞いてもらう事で、しょっちゅう感想も得られますし、まっさらな状態からプレゼンをするので、ある程度緊張感があります。
ここで内容を変える必要はないが大事なポイントが伝わっているか、間合いがちゃんと取れているかなど確認するとよいです。また、感想を聞いたり、質問をいくつかしてもらうと本番の準備にもつながります。
前日
いよいよ明日はプレゼン。今回のPTC’24ではヒルトンホテルの中で一番広いスイートルームに30席ほど並べてプレゼンをするスタイルでした。
可能であれば、必ずステージに立ってみて、マイクのチェック、スライド送り(クリッカー)のチェック、どこで話すのか、オーディエンスはどっちを向いているだろうかというのを確認してみてください。
私もやってみると自分が映しているスライドが見えない(返しのモニターがないため)、この場所でしゃべるとハウリング(スピーカーの音をマイクが拾って不快な音を発する現象)が発声するなどありました。また、なぜだか分かりませんが、Bluetoohのクリッカーが立ち位置によって反応しないなどのトラブルがありました。
そして、主催者が許してくれるのであれば、実際に通しでリハーサルをやらせてもらうと本番のイメージが付きやすくなります。特にどこに目線を合わせながら話すかなどイメージすると良いです。
他にも登壇・降壇の動線を確認しておくとスムーズです。やはり最初と最後は肝心です。意外とリハーサルって緊張するものです。
当日
さて、登壇の当日です。私のプレゼンは午後でしたので、当日の朝、ホテルの部屋で一度通しでスピーチを声に出してやってみました。ここは練習というより「できる」という確信を持つのが目的です。一度通しでやっておくと本番でもアドリブが効くものです。
カンファレンスの大きさにもよりますが、会場に先に入ってきたお客さん数人と軽く挨拶&話をしておくことをオススメします。
私のPTC’24のプレゼンは会期3日目でしたので、それまでにネットワーキングやランチタイムに自分のプレゼンを聞きに来てもらうように各国からの参加者に声を掛けました。そうすると、事前に会場が暖まってきます。オーディエンスも心の準備ができるので聞く姿勢になるということです。
いざ本番!
思いっきり楽しみましょう! しゃべるときに忘れてはいけないのはオーディエンスの一人ひとりとアイコンタクトすること。そして、演台でしゃべらないこと。
はじめはステージの真ん中に出て行ってからスピーチを始めました。演台に立ってしゃべると、演台という壁があるため、オーディエンスと一体になりにくくなります。なんなら、「超近くない?」というくらい最前席の人に近づいてもいいと思います。
何度も言いますが、忘れてはいけないのは、主役はプレゼンスライドではなく、スピーカーです。そして、話すときに大事なのはアイコンタクトです。これは日本で話すときよりも3倍くらい気をつけてやった方がいいです。
出だしは、誰もが緊張のピークになると思います。焦って話し始めるとどんどん早くなっていきオーディエンスが取り残されてしまうので、間の取り方にフォーカスしました。練習よりももう一拍間を置くくらいがちょうどよかったです。特にアイスブレイクは大事なので、長めに間を取りました。
私は前回の記事でお伝えした「プレゼンスキップしてネットワーキングの日本酒飲みたい人?」というジョークでだいぶウケたので会場の空気が柔らかくなりしゃべりやすかったです。マーケターという印象よりも酒が好きな人というイメージが付くと身近になりますよね。
プレゼンを続けているとどうしても早口になり、オーディエンスが置いてかれるという状態になりがちです。なので「ちょっと考えてみてください!」など投げかけてプレゼンをポーズすることで緩急をつけることも意識しました。
その方がずっと印象に残ります。日本だと話がつまらなくても最後まで聞く人が多いですが、北米では平気で出て行ってしまいます。場数にもよりますが、若干空気がよどんできたら会場に質問を投げかけたり、こっちを見ている人に質問をするのもありです。
プレゼンのクロージングも最後に印象づけるために重要です。しっかりと自分が何者なのか何を提供できるのか。こういう人はプレゼンが終わった後に私のところに来てほしいということを伝えます。
そうすることで人脈をつなげていく、新しいビジネス機会を得るということにつながりました。また、最後に笑わせる冗談を挟むのも有効でした。例えば、Appleで有名な「One more thing」なんて入れるとかっこいいです。私の場合は「One more thing, my favorite Sake is Dassai, by the way.」と始まりが酒で始まったので終わりも酒で締めたところ、I will try it! などレスポンスをもらえました。
プレゼン後で重要なQ&A対策
もう一つ大事なのはQ&A対策。プレゼンが終わったら終わりではないです。日本だと質問タイムに質問がないことの方が多いですが、北米ではほぼ間違いなく質問が来ます。
特に、日本人は『How』つまりやり方に関する質問が多いですが、北米では『Why』なぜそうしたのか?またはこの件に関するあなたの『意見』を質問されることが多いです。
PTC’24の会場には、カンファレンスの主催者であるPTCのCEO、ブライアン・ムーンも出席してくれて、質問もいただきました。
「日本は市場が小さくなっていく中でこれから海外企業はどのようなことを期待して参入すればいいの? また、日本の会社はグローバルビジネスの中でどのような役割を担うべきだと思うか?」
話が大きいなー!って感じましたが、プレゼンに沿った内容でなくても自分が普段感じている疑問をプロに聞いてみようということはよくあります。正直この内容だけで1時間以上は話せそうな広く大きなテーマですが、プレゼンのスピーカーとしては短く自分の意見をまとめて応える必要があります。
実はカンファレンスの場面でなくても北米で生活をしているとこういう広いテーマのディスカッションはよくあります。あくまで自分の意見として常日頃から思っているコトをぶつけるのが大事です。また、俯瞰してものを見るクセと意見を発言するクセをつけておかないといけません。
日本では議論=戦いのイメージがありますが、あくまでお互いを理解するためにやっているだけで正解などありません。まずは自信を持って自分の意見を言ってみてください。なかなか応えるのが難しい場合は、この後のネットワーキングで議論しましょうと返答するのも一つの手です。
全体のまとめ
今回の北米でのカンファレンス(PTC’24)とカナダの食品業界団体のセミナーは成功裏に終わりました。ネットワーキングでもたくさんの人と深い議論ができましたし、誰かを紹介してくれる人もいました。
繰り返しに成りますが、スピーチとプレゼンテーションは9割以上準備といっても過言ではないです。私は3ヵ月以上かけてこのプレゼンの準備をしてきました。準備をしていれば本番に何かあっても対応できます。
例えば、スクリーンが投影できなくなってもスピーチ原稿は頭の中に入っているので話せるでしょう。元々スピーチ原稿もスライドがなくても伝わる様に作っているわけですから恐れる必要はありません。
そして、大事なのはスピーカーであるあなたが主役であることです。オーディエンスに注目してもらい、自分を売り込むという気持ちが大事です。
私は会社の代表として参加しましたが、まずは自分を売り込むことに注力しました。あいつおもしろいからこの人と引き合わせてみよう。もう少し話を聞きたいからランチに誘おうというネクストアクションが生まれました。
最後に、プレゼンテーションはあくまでこれから議論をするための材料としてこちらから提案したものという意識が大事です。
それをベースにネットワーキング等でディスカッションするという気持ちで行くとよいです。なので、常日頃からいろいろな事象に対して自分の意見を言えるようになることが大事です。政治的な話はNGと日本では教わりますが、北米では当たり前の様に話にでます。
自分のスピーチからネットワーキングまで、しっかり準備していけば必ず成功できます。北米にはものすごく多くのビジネスチャンスがあります。
本記事が、あなたのプレゼンテーションを成功に導くための参考になれば幸いです。北米でのビジネス展開において、輝かしい成果をおさめることを心から願っています。
参考までに、下記のフォームから実際に私が直近のプレゼンで使ったスライドとトランスクリプトをダウンロードできる様にしましたので、よかったら見てみてください。