アメリカでプレゼンやスピーチを行ったことはありますか? しかも英語で! アメリカでプレゼンテーションと聞くとAppleやGoogleなどのテック企業による強烈なプレゼンテーションなどを想像します。
北米市場に挑戦する日本の経営者やスタートアップであれば、いつかは英語で格好良くプレゼンしてみたいと思うものです。
なんと、今回、私、神村優介(シェイプウィンの代表)は、アメリカIT・通信業界の中でも歴史ある代表的なカンファレンスである『PTC』において世界各国のリーダーの前でプレゼンをする機会を持つことができました。
また、同時期にカナダの食品業界団体である『BC Food & Beverage』でもオンラインですがセミナー講師として登壇しました。どちらもだいたい20−30人のオーディエンスを前にプレゼンしました。テーマはどちらも日本のマーケティングに関することです。
カナダに住んでいるので英語もペラペラなんでしょ? と思われるかも知れませんが、私の英語のスコアは昨年の秋に受けたカナダの英語能力テストCELPIPで7、留学などでよく使われるIELTSに換算すると6.0のレベルです。
このスコアは「Adequate proficiency in workplace and community contexts」つまり、生活と仕事で最低限必要なレベルの英語力ということで、英語のレベルというと中級に値します。そのため、『準備』に3ヵ月以上の期間を費やしました。
今回のレポートでは、今後、アメリカ・カナダを始め海外でプレゼンをしたいと思う経営者や事業責任者に向けて、私が実際に北米でのプレゼンテーションを成功させた経験をもとに、内容構成、スライドやスピーチ原稿、練習の方法や本番当日の動きなどのポイントを詳しく解説します。目標は、英語力が中級レベルの経営者でも、効果的なプレゼンテーションを実施できるようになることです。
- 北米向けのパワポづくり編
- 欧米人に伝わるスピーチ準備編
- 直前から本番までの体験談
3回の連載でお伝えします。今回は第1回ということで『北米向けのパワポづくり編』をお届けします。
アメリカでプレゼンする難しさは何か?
おそらくこの記事を読んでいる方は日本語ネイティブ、日本で育った日本人だと思います。そして、プレゼンテーションやスピーチを日本語で日本人向けにやったことはあり、ある程度慣れているのではないかなと想像します。
実際、私も日本語では何度もプレゼンやセミナーをしており、慣れていました。しかし、北米のカンファレンスに参加してプレゼンやパネルディスカッションをしている登壇者を見ると、やはりあの人達と同じようにしゃべるのはちょっと難易度が高いし、実際機会があっても足がすくむなと思っていました。
しかし、何事にも最初があるということで、いろいろ調べたり周りに聞いたりして今回のプレゼンを準備していったのです。
多様性と英語が課題
話を戻して、北米でのプレゼン・スピーチの難しさは、やはりオーディエンスの『多様性』にあるのだと思います。文化を肌感覚で理解できていないため、何が正解なのか分からないと悩むことも多いです。
そして、英語でスピーチするというハードルの高さもなかなか一歩踏み込んでみようとならない要因です。打ち合わせやおしゃべりとは全然違います。
また、スタートアップの経営者であれば、北米スタートアップのプレゼンのパワポ、いわゆるピッチデッキを参考にして自社のプレゼン資料を作ったことがあると思います。日本のパワポスライドとは全然違いますよね。第一部ではこのパワポスライドについて学んだ点や気をつけた点に触れていきます。
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北米向けプレゼンのスライドを作ってみよう
プレゼンテーションといったら、まず思い浮かぶのはパワポのスライドづくりでしょう。もちろん、スライドを使わないでスピーチだけという場合もあります。しかし、視覚情報というのは音の情報に比べて多くの情報を届けられるためパワポは必須アイテムです。
シンプル・イズ・ザ・ベスト
プレゼンテーションのスライド作成において最も重要な原則の一つが、「シンプルさ」です。日本のビジネスシーンでは詳細な情報を盛り込んだスライドが好まれることがありますが、北米ではその逆が真です。
これはいろいろ理由があると思いますが、英語と日本語の特性にもあるかも知れません。例えばテレビ番組を見ても日本のテレビはテロップが多いです。YouTubeもお金を掛けているチャンネルは必ずと言っていいほどセリフにテロップが入ってます。
逆に北米のテレビはセリフをテロップにしたり、さらにはテロップにモーションをつけたりなどはまずありません。日本語は言語構造的に漢字とひらがな・カタカナを使い分けられ、日本人の識字率も高いため文字を読む能力が異様に高いのです。なので、文字がたくさん入ってる方が情報がたくさんと認識されリッチに思えるのです。
しかし、今回のオーディエンスは、アメリカ人をはじめとした欧米人が中心です。郷に入れば郷に従えということで、シンプルなパワポを作りましょう。シンプルなスライドは、聴衆の理解を助け、メッセージを明確に伝えることができます。文字情報の過剰な使用は避け、必要最低限の言葉に絞り込むべきです。
例えば、一つのスライドに主要なポイントを一つだけ置き、図版は使ってもそのメッセージを補足するビジュアルやグラフィックかつ非常にシンプルなものを置くようにしました。例えば、これはプレゼンの中の一枚ですが、英語のプレスリリースと日本語のプレスリリースの違いを紹介しています。
このスライドではプレスリリースの書き方を紹介しているのではなく「日本のメディアや読者に訴求するにはストーリーテリングよりもスペックが大事なんだ」ということを伝えるためにプレスリリースにスペックシートが載っていることを例に挙げたものです。このように視覚で入る情報はシンプルにし、大事なポイントは言葉で伝えるようにしました。
キャッチコピーと単語の選択
この単語選びやキャッチコピーを作るというのも非ネイティブの日本人にはキツい作業です。そもそも何が響くのかわからない、選んだ単語でちゃんとニュアンスが伝わるのか?など答えがありません。一つ言えることは日本人の感覚だけに頼らないことです。
例えば、日本語ではスケジュールというと目標に向かってタスクを切って、それぞれの締め切りを作っていくイメージがありますが、英語ではTimeline(タイムライン)という単語の方が自然です。他にも日本人はSNSと言いますが、英語ではSocial Mediaと言わないと通じないです。
特にスライドにフローチャートの様な図版を使いたいときには漢字は便利なものです。例えば、数量、客単価など漢字であれば2-3文字で伝わるところも、英語では、Quatinty、Average spend per customerとメチャクチャ長くなります。
Qty.、ACSと略すこともできますが、文脈が分からなければ何のことを指すのか分からなくなります。略語の調べ方は、Googleで「客単価 英語 略語」「Average spend per customer Abbreviation」(※Abbreviationは略語という意味)などと検索するといくつか出てくるのでそれを使うといいと思います。
そして最後の難関『キャッチコピー(英語ではTaglineと言います)』。簡潔でパワフルな言葉を選び、プレゼンテーションのコアメッセージを強調する必要があります。北米のスライドでは疑問形で投げかけるものが使われることが多いです。「What is the key to success?」など投げかけることで何のトピックを話しているスライドなのか分かるようになります。
特に日本人は説明しようとする傾向があるので、スライドで使用する言葉はあくまでキーワードを並べただけくらいにしておくとシンプルでわかりやすいスライドになります。周りに英語ネイティブの人がいない場合は、ChatGPTで生成すると良いです。何度か試しましたが弊社のネイティブも評価するほど精度が高いです。
内容の決定
スライドの内容を決定する際には、聴衆がプレゼンテーションから何を持ち帰るべきかを明確に定義することが重要です。これは、プレゼンテーションの目標を設定し、その目標に向けて聴衆を導くためのロードマップを作成することを意味します。
聴衆の背景、関心、ニーズを理解し、それらに対して価値を提供する内容を構築することが、成功への道を切り開きます。この過程では、聴衆がプレゼンテーション後に取るべき具体的なアクションも考慮に入れるべきです。これにより、メッセージがよりインパクトを持ち、聴衆が記憶に残りやすくなります。
今回の私のプレゼンは10分程度のものですが、自己紹介、サービス理解、メインのコンテンツで伝えたいことをすべて入れてしまうと最低でも30分はかかるものになります。内容を絞っていくときには、暗黙の了解や優先順位の低い内容を削っていきます。
ただし、難しいのは様々な人種、背景の人がいるため、その前提を推測することが重要なのです。日本では外国人とひとくくりにしますが、外国人という人はいません。
また、日本は教育を等しく受けているので、オーディエンスの理解力は平均的に高いです。アメリカは、人種もバラバラ、教育もバラバラなので、できるだけシンプルに「今日はこれについて話します。4つ重要なことを言います。明日から実践してください」これくらいシンプルな構成が必要です。
IT・通信業界のカンファレンス『PTC’24』では、グローバル企業が集まっているので、日本市場で成功させるための秘訣を4つ伝え、日本でアメリカ企業向けにクロスボーダーのマーケティングを支援している会社はシェイプウィンくらいしかいないということを伝えることを目的としました。
また、食品業界団体の『BC Food&Beverage』では、アジア市場で売れるためには日本市場という信頼のゲートウェイを利用することが近道であり、そのスペシャリストとして支援しているということを伝えました。
ストーリーテリング
北米のプレゼンテーションで特に意識してほしいのは『ストーリーテリング』です。効果的なプレゼンテーションは、単なる情報の提示ではなく、ストーリーテリングを通じて、聴衆の感情に訴え、メッセージを心に響かせるものです。
日本のプレゼンでは『ノウハウ』が焦点になります。しかし、北米のストーリーテリングでは、どのような課題があって、それに対して”なぜ”、それの行動を取ったのか?など過程で直面した挑戦や成功体験を共有することが大事です。これはビジネスでの会話でも良くあります。
日本人同士は「どうやってやるんですか」というHwo toの部分を聞きたがる人が多いですが、アメリカでは「どうしてその決断をしたのですか」というような理由や意思に焦点を当てた質問をもらう事が多いです。
今回のプレゼンでは単純に日本のマーケティングノウハウを伝えるのではなく、シェイプウィンが3年前は日本だけでビジネスをしていた事実からどうやってインターナショナル取引をするようになったのか、その秘訣からクロスボーダーのマーケティングで重要なことをお伝えしました。同時に、弊社のクライアントのストーリーもお伝えしたことで、説明の説得力を増すことができたのではないかと思います。
スライド構成とデザイン
実際にパワポを作り始めるにあたり、デザインテンプレートは重要です。こちらもなじみ深い英語スライドのデザインを採用した方がよいです。
まず、スライドのデザインは、海外のテンプレート販売サイトやデザインソフトのCanvaのテンプレートを使うと良いでしょう。もし、社内にデザイナーがいれば、そのテンプレートをコーポレートカラーに合わせたり、フォントを調整したりしてもらってください。
テンプレートを見ると日本の白っぽいプレゼンスライドに比べて背景に色があったり、図形で塗りがあったりなど全体的に色が入っているものが多いことに気付くかもしれません。
白人はアジア人に比べてまぶしいと感じます。逆にアジア人は全体が暗いと見えづらいのです。理由は定かではないのですが、そういうこともデザインや配色に起因しているのかもしれません。
さて、構成に入って行きましょう。
ストーリーテリングと先ほど説明しましたが、スライドの流れ(アニメーションではない)も重要です。いわゆるプレゼンの構成です。論理的で一貫性のある構成を心掛けるべきです。各スライドは、前後のコンテキストとしっかりと繋がっている必要があり、スライド間の遷移はスムーズで自然であるべきです。
スライドの構成やデザインは、日本でもたくさん書籍がありますが、おおよそその流れで良いです。例を見てみたいという方は、「best pitch deck examples」などと検索すると、過去のスタートアップのプレゼンスライドの内容や構成、デザインの例がありますので参考にしてみてください。。
例:15 great pitch deck examples from successful startups
冒頭でも書きましたが、シンプルなことやできるだけ文字や図を少なく大きくすることを意識してください。
今回PTC’24で使用したパワポの流れ(プレゼンの構成)は下記の流れに沿っています。
- タイトル:これがないと始まりませんよね。
- 自己紹介:会社紹介よりも自己紹介が先です。これは日本とは逆です。
- 会社紹介:サラッとでいいです。特に数字や表彰歴が説得力を増すためにも重要。
- 実績紹介:どのようなところで使われているかなど実績は説得力をますためにも重要。
- 市場の課題:なぜこの話をするのか?導入として課題をオーディエンスと共通認識を築く。
- ソリューション:サービス内容は簡単に。顧客ベネフィットを厚めに。
- お客様の声:実績紹介の信頼度をアップさせる。
- クロージング&オファー:内容をまとめてオーディエンスにアクションを起こさせる。
重要な内容について少し触れます。まずは、自己紹介や会社紹介です。日本だと資本金がいくらでとか住所がどこでなどホームページの会社概要に載っている内容を話す方が多いですが、全くいらないです。
拠点、事業内容、受賞歴、社員数など自社の規模感や市場での存在感が伝わ るものに集中してよいです。例えば、私であれば「セガ出身」「北米にも支社がある」「日本と北米で表彰されている」というような事実を中心に紹介しました。
実際に私が直近のプレゼンで使ったスライドとスピーチ原稿を見てみたいという方は下記のフォームからダウンロードできる様にしました。
まとめ
今回は、北米のカンファレンスでプレゼンをする際に必要なパワポの作り方を中心に紹介しました。デザインやグラフの作り方といった実践的な内容は書籍がたくさん日本にも出てるのでそちらを参考にしてもらえればと思います。
この記事でお伝えしたかったのは、北米と日本のオーディエンスのカルチャーギャップです。文化や背景を理解せず、日本でやってきた通りにやっても上手くいきません。シンプルで視覚的に魅力的なスライド、聴衆の心に響くキャッチコピーと単語選び、明確な目標を持つ内容の決定、強力なストーリーテリング。
これらは、北米市場でナチュラルな演出をするために必要不可欠です。この記事が、あなたのプレゼンテーションを次のレベルへと引き上げる助けとなれば幸いです。次回の記事では、欧米人に伝わるスピーチ準備編と題して、トークについて触れていきたいと思います。